水稲の場合、いもち病に対する抵抗性遺伝子の多くは特定の病菌にしか効果がないが、陸稲の抵抗性は様々な病菌に強く、いもち病にかかっても収量には影響しない。
このため80年以上も前から陸稲の幅広い抵抗性を水稲に取り込むための品種改良が続いているが、実用的品種はできておらず、抵抗性を支配する遺伝子も発見されていない。
今回の研究では陸稲から抵抗性の強い「pi21」という重要な遺伝子を特定し、これがこれまでの抵抗性遺伝子とは異なる構造を持つことを明らかにした。
また、これまでは交配によって陸稲のいもち病抵抗性を水稲に導入した場合、いもち病には強くなるものの、食味が低下するので、この抵抗性は育種に利用されなかった。
この原因について研究は、陸稲型pi21遺伝子の近くに食味を損ねる遺伝子があり、従来の品種改良では両遺伝子同時に新品種に取り込まれてしまうためであると明らかにした。 そしてゲノム情報を利用した新たな育種法により食味を損ねる遺伝子を切り離し、pi21遺伝子だけを水稲に導入し、おいしくて、いもちに強い品種「中部125号」を開発した。
今回の成果は遺伝子の位置情報を利用して長年にわたる品種改良の問題を解決した世界でも初めての事例だ。成果は21日付の米国科学雑誌「サイエンス」に掲載される。
【解説】
いもち病はイネの深刻な病害で被害額は年間数百億円にも及ぶため、これに強い品種の開発は、農薬使用を少なくする「環境負荷低減型農業」を実現する第一歩となる。
陸稲は、いもちに対して持続性のある抵抗性を持っているが、この優れた性質がどの遺伝子によるかはわからなかった。
今回の研究では「それがpi21であると特定し、これまでの抵抗性遺伝子とは異なる構造を持つことを明らかにした」と同研究所QTLゲノム育種研究センター・福岡修一主任研究員は説明する。
また陸稲のいもち病抵抗性を交配で水稲に導入した場合、食味が低下するという難点も解決し、中部125号という実用的な新品種を開発した。
今回の結果から、遺伝子の正確な位置情報を得ることによって、不要な遺伝子の除外と必要な遺伝子だけの取り込みが可能となり、いわゆる「デザイン育種」の実現性が見えてきて、今後の品種改良の高度化に大きく貢献するものと期待されている。