◆個人を励ます協同
21年度は広島大学大学院生物圏科学研究科の田中秀樹教授の『地域づくりと協同組合運動―食と農を協同でつなぐ―』(大月書店、平成20年10月刊)。
茂木守JA全中会長から表彰状と副賞50万円が贈られた。
同書は協同による地域づくりと協同組合の役割を論じた。
グローバリーゼーションの進行と市場原理主義で個人がバラバラにされつつあるなか、農山村で新たな協同を通した地域が進展していることに田中教授は「個人を励ます協同の役割」を検討した。同時に食と農に着目した地域づくりに焦点を当てている。
そのうえで協同組合事業を立て直し地域づくりをするためのふたつの戦略を提起している。
(写真)茂木守JA全中会長(左)から表彰状を受け取る広島大 田中教授(右)
◆事業の起点は組合員
ひとつは事業を「組合員の暮らし」を起点に立て直すことで、そのために協同組合職員の労働を「組合員を主人公としたサポートワーク」として編成し直すこと。「今はどうしてもお客さん意識になってしまう。役職員教育は大事だが、実際の事業を組合員の声を聞き暮らしを励ます事業システムができているかが問われる」という。
もう一つの戦略が「大きな協同組合のなかに小さな協同・協同組合をつくること」だ。
JAにしろ生協にしろ販売・購買といった流通を主戦場にする事業は大規模化しやすい。効率化が求められるなかで地域から離れていってしまい「協同組合が形骸化、会社化してしまう」。そうした脱協同組合員の歯止めとして、より小規模の福祉協同、直売所運営など意識的な協同活動や、JA間連携が必要になるという提言である。
「組合員の暮らしの位置から協同組合を考えるべき。今後も地域づくりとJA・生協のあり方を重視した研究を続けたい」と田中教授は話していた。
【略歴】
(たなか・ひでき)
1954年愛知県生まれ。88年北大大学院教育学研究科博士後期課程単位取得。90年生活問題研究所を経て広島大生物生産学部助手、92年助教授。