世界の食料需給逼迫が叫ばれる中で日本の食料自給率は極めて低く、日本農業も衰退傾向にある。シンポジウムでは「農は国の基(もとい)で国民の礎である」を趣旨に掲げ、日本の農を再生させるためにできることについて考えた。
開会にあたりパルシステムの若森資朗理事長は「政治も新たな転換点を迎え、農の果たす役割についても改めて考える時期。生産者と消費者の連携で農業価値を世界に広めていきたい」とあいさつ。JA全中の茂木守会長は「日本の食と農を守るための国民運動として国民各層への理解を促していきたい」。大地を守る会の藤田和芳会長は「食の安全性に関心が高まる中で自給率や生産者の意欲は下がっている。これは国の責任。農を守る新しい施策ができることを期待したい」と意気込みを語った。
◆“使い勝手の良い暮らし”への変換
「日本の農業と食料安全保障について」をテーマに、作家でふるさと回帰支援センター理事長の立松和平氏が基調講演を行った。
自ら足を運んだ農村での体験をもとに語った立松氏は「農村を歩いて感じたことは高齢化と後継者不足」と指摘。また畜産の食料自給率を飼料自給率に反映すれば実際はもっと低いと話し、「世界は自国の物を作ることで精一杯の時代がやってくる。日本の農業を立ち直すことは可能で、もはやそれしか先はない」と述べたうえで、「周囲を歩けば自分の生活が賄えるような“使い勝手の良い暮らし”が理想。日本全体が目指すべき生活の姿だ」と指摘した。
◆共感型の運動が再生の要
その後行ったパネルディスカッションには▽JA全中の冨士重夫専務▽パルシステムの唐笠一雄専務▽大地を守る会の藤田和芳会長▽作家の島村菜津さんがパネラーとして参加。立松氏をコメンテーターに、ふるさと回帰支援センター常務理事の高橋公氏が司会を務めた。
話し合った内容は主に▽提起する問題点▽21世紀の農業の最重要課題▽日本の農業再生をどうしていくか―について。
問題提起について冨士専務は「生産者の所得確保のため、政府の力による仕組み・政策作りが必要」、唐笠専務は「食の基盤である農業・漁業のしっかりした基盤づくり」と話した。
21世紀の農業の最重要課題について冨士専務は「WTO・FTAをどういうふうに切り替えていくか、地域・作物実態に応じた所得と経営の仕組みをどう作っていくか」、唐笠専務は「『国産品を買うことで日本農業を守っていくんだ』という共感型の運動、専業農家にきちんと補助できる仕組みへの変換が必要」とした。
食料がグローバル化する中で進むべき方向について藤田会長は「食料自給率をどうやって1%でも上げられるか考えることが必要」と話し、それに対して「自給率の低下は食生活の変化も要因の一つ。農家の努力だけでなく、消費者へ食生活の改善や国の政策と合せて取り組んでいく必要がある」との意見も出た。島村さんは「日本人は全ての価値を数値化したために本当の価値を置いてきてしまった。誠実なものづくりに対する評価を消費者に根付かせるべき」と消費者意識にも問題があると述べた。
日本の農業再生について島村さんは「都市の若い発想や企業の発想などを取り入れるなど、今まで出会わなかったものに出会うことで新しい流れが生まれると思う」と期待。藤田会長は「生産基盤を残すこと。減反政策の見直し。農を守ってきた中山間地の復興」を指摘。唐笠氏は「生産に従事する“生命産業”を発展させる空気を作ること。現在の農政の見直し、消費者が産直品を買い支える仕組みとなるようもっと生産者との交流をすべき」と話した。
シンポジウムの最後には集会宣言(別添参照)が採択され、今後は「『農』を礎に日本を創る国民会議」を結成して食料安全保障実現への国民運動として政府や国民へ発信していきたいとしている。
(写真)上:JA全中・冨士重夫専務(左)、パルシステム・唐笠一雄専務(右) 下:大地を守る会・藤田和芳会長(左)、作家・島村菜津さん(右)
宣言内容(一部抜粋)
日本の農業・農村は、いま、危機的状況にあります。
翻って地球社会では、食料を的(まと)に六つの争いが激しくなっています。“六つの争奪”とは、(1)人口増加による食料の争奪、(2)国家間の農地の争奪、(3)作付面積と作物間の争奪、(4)肥料の争奪、(5)非遺伝子組み換え作物の争奪、(6)バイオ燃料に見られる食用とエネルギー用の争奪、です。この事態をビジネスの絶好のチャンスと見て、巨額の投機資金が動き回っています。…食料の60%を外国に頼っている日本は、食料危機に極めて弱い国だと言わざるを得ません。
国の基(もとい)である農を再生させ、日本人の「食」を安定的に確保するためには、農業生産額と農業所得を増大させて農業・農村を元気にすることが必要であり…食料自給率の向上をはかるとともに食料安全保障を国家戦略として明確に位置づけることが必要不可欠であると考えます…」