(写真) ◆協同組合の認知度はどこで高めるか
全国から多くの参加者が集まった。あいさつをする薄井理事長。(=3月26日、東京・大手町の日経カンファレンスセンターで)
薄井寛協同組合経営研究所・JA総研理事長は、本セミナーを、両研究所の協同組合と地域社会とのつながりについての研究成果とその集大成を発表する場だと位置づけた。
一方で国連が2012年を「国際協同組合年」と決めた際の潘基文(パン・ギムン)国連事務総長の発言について「協同組合についての認知度を高めることなど6つの目的を掲げているが、残念ながらその中に協同組合と地域社会とのつながりに関するものはなかった」と述べた。また、形だけのシンポジウムなどは行われるがマンネリ化が否めないと指摘し、「地域社会の中での認知度を高めることがもっとも重要だろう」と、12年に向けての活動に期待を寄せた。
セミナーの座長を務めた北川太一福井県立大学教授は、JAが統廃合した支所・支店を地域住民が自主運営するなど手づくり自治が増えている現状や、地域で協働に取り組むことの意義など両研究所の研究成果を、「協同組合と地域社会連携方策研究会」の報告書として発表した。
◆地域住民の手でJA支店を存続
鳥取県智頭町の寺谷誠一郎町長(写真左)は基調講演で「日本を救うのは農業と林業だ」として、ストレスやうつ病、生活習慣病など大都市での生活から“疎開”する町を官民協働でつくっていると発表した。
町の予算について広く町民のアイディアを募る100人会や、森をそのまま幼稚園にしている「まるたんぼう」などの取り組みを紹介。都会からきた人びとに土づくりから農業を学ばせたり、神戸のスーパーと野菜の全量買取契約などで農業を振興している。
事例報告は、▽喜代永真理子福祉クラブ生協理事長(写真右)、▽下竹りえ子よってはいよファクトリー代表、▽奥村充由JAみなみ信州まつかわ地域事業本部長、の3者が発表。
福祉クラブ生協は組合員同士が助け合う参加型福祉支援サービス「ワーカーズコレクティブ(W.Co)」が特徴的だ。20年前に2グループで始めたが、09年3月現在で17業種84グループにまで活動は広がっている。
下竹さんは、統廃合で廃止されることになったJAの支店を地域女性たちが自主運営し、購買店舗から福祉サービス、農家レストランまでさまざまな形で事業発展させた経緯を、奥村氏も一度廃止が決まったJA支所を、住民150人が1口5万円を出資して(株)活性化センター生田を設立したり、町役場の支所をJA内に入れるなどして存続させている活動を発表した。
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パネルディスカッションではさまざまな意見が。(右から)寺谷町長、根岸氏、下竹氏、青柳氏、奥村氏、喜代永氏、松岡氏
◆協同組合活動には、教育と女性が重要
パネルディスカッションは協同組合経営研究所の松岡公明常務理事をコーディネーターに、発表者4人に青柳博JA福岡市常務理事、根岸久子協同組合経営研究所研究員の2人を交えて、熱い議論が交わされた。
協同組合運動は教育に始まり教育に終わるのではないかと問われた青柳氏は、JA福岡市が支店ごとに3カ年計画や広報紙をつくり、独自の活動で地域との絆づくりをしていることを紹介し、「職員が雇われているという意識を捨てて、3〜5年先を見据えた支店運営をしなければいけない」と述べた。
奥村氏は、農機具事故がほとんど組合員の自己責任で片付けられてしまう例をあげて、JA職員は組合員を一番大切に考え、JAは職員を大事にしなければいけない、と述べた。
喜代永さんは、一方的に教える教育ではなく、ともに考えともに育とうという「共育(ともいく)」の重要さにふれ、福祉クラブ生協では「新しい人が活動に入られるよう、かなりの労力、経費などを共育活動にかけている」ことを紹介した。
寺谷町長は「組織活動には女性の活動が不可欠。女性の活動がすばらしいところは行政、農業、組合などがピタっとしている」と、女性の行動力・組織力を賞賛した。
根岸さんも女性の責任感は男性よりも強いと讃え、「参画型の組織運営が人づくり、活動のステップアップにつながる。地域と職員が問題を共有し一緒になって解決しようという、当事者意識を育てる必要がある」と述べた。
下竹さんは農業委員時代に男性委員から眉をひそめられながらも広報活動などに励んだ経験を話し、「女性の活躍の場を増やし、若い人たちが農業に入るためには、絶対に家族経営協定を結ばないといけない」と力説した。
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上:下竹りえ子よってはいよファクトリー代表
下:奥村充由JAみなみ信州まつかわ地域事業本部長