農水省の統計によると、2008年の青果物卸売市場での取引数量は野菜1134万トン、果実435万トンで、総価額は野菜2兆1420億円、果実1兆1169億円だ。ともに1990年ごろをピークに漸減している。
セミナー初日には産地(JA)、流通(市場)、販売(生協)の代表3者がそれぞれの取り組みと課題を発表した。3者に共通して消費者ニーズへの対応や物流改革などが話題となったが、会場との意見交換では特に流通販売面での価格形成について議論が集中した。
◆理不尽な流通にペナルティの仕組みづくりを
会場からは、農産物価格の下落が止まらず産地が窮しているなどの意見が相次いだ。
研究会代表の鈴木昭雄氏(JA東西しらかわ組合長)は「価格決定のプロセスが不透明だと思う。もし再生産可能な価格であれば、生産者が減り続けるハズがない」、黒田義人氏(JAえひめ南常務理事)は「スーパーが大きな力を持ち店頭販売からの逆算をするので、再生産可能な価格を確保できない。市場には時代や季節に応じた妥当な価格形成機能が欠けているのではないか」と指摘した。
川田氏は市場の課題として、大手量販店がセリ前に価格を決めて出荷している現状などに触れ、「生産者も加わって出荷数量と買取数量の計画を立て、成約取引を増やしていきたい」と述べた。価格の下落については、「昔は約束分より多く出荷したらその分買っていったが今は絶対に買わないし、注文数を急に減らす小売もいて、余剰が出て値が下がる。産地にはより計画的な出荷を、理不尽な流通にはしっかりペナルティを課すような機能を行政とも協力してつくりたい」と述べた。
◆農産物の“正当”な価格とは?
小島俊一氏(JA宇都宮組合長)は「価格の報道はいつも前年比や平年比だが、仮に値が上がったとしても前年が大きく原価割れだったらまったく喜べるものではない。産地やJA、マスコミは再生産可能な“正当”な値段はどれぐらいかという情報開示を怠ってきたのではないか」と価格の考え方を変える必要があると指摘し、「もしまっとうな再生産価格を提示したら、消費者はどう受け取るだろうか」と問いかけた。
赤松氏は、消費者はまず安いか高いかだけを考えると前置きした上で、再生産可能にするための施策は3通りしかないと述べた。「1つは消費者価格を上げる、2つめは国が補償政策を講じる、3つめは生産コストをさげる。消費者に高く買ってほしいといってもなかなか難しいし、コスト削減も限界はある。やはり最後は国家が支えていく必要があるが、将来的な投資に税金を入れるのは消費者もなかなかわからないだろう。国民的なコンセンサスをつくり、消費者も流通も一緒になってつくっていくことが必要だ」と述べた。
それに対して萬代宣雄氏(JAいずも組合長)は、「金さえ出せば食料は外国から買えるのが現状だ。しかしJAや産地が、このままでは日本の農業はつぶれる、外国からの輸入もできなくなる、と言っても我田引水と思われ理解されない。消費者側からの買い支えなどを生協の事業計画に盛り込んで、しっかりPRしてほしい」と注文した。
赤松氏は「今がちょうど踏ん張り時。外国から食料が買えなくなって来たが、それでもまだまだ安いものは入ってくる。大変なことになる前に、政策誘導などをしっかりやりたい」と述べた。
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2日目にはJAはが野パッケージセンター、直売所「あぐりっ娘」などの現地視察をしたほか、大会アピール(下記)を満場一致で採択した。研究会代表らは5月14日、都内で政府やJAグループへの要請活動を行う。
次回の新世紀JA研究会第9回セミナーは、福岡県のJAにじで11月上旬に開催する。
大会アピール(要旨)
○大転換した農政実現のため、WTO交渉、新規需要米の流通・販売対策、二次加工米の輸入実態の公表、など万全の措置を講ずる。
○米以外でも戸別所得補償の適切な制度設計を行い、市場で農産物の適正な価格形成を行う。
○政府とJAグループとの意思疎通・連携を強化する。
○信用・共済事業の分離や独占禁止法適用除外の見直しなど、将来を誤るような議論を行わない。
○食料自給率向上へ国民意識の啓発活動を強化する。
(発表要旨)
◆卸売市場は日本の食文化に合っている
川田一光 東京青果代表取締役社長
多くの流通学者は日本の流通は非効率的で、アメリカを見習えというがこれは暴論だ。季節にあわせて少量多品種を食べる日本の食文化は、アメリカとまったく違う。日本の卸売市場は食文化に立脚した流通だ。また、市場外流通ならコストが安く済むというのも誤解で、包装・運搬など多くの業者が入るので中間経費はあまり変わらないし、市場での検査、情報公開、商品責任などの機能も大きい。
今、大きな弱点は加工品だ。ミカンの皮を剥くのも面倒、サプリメントさえ摂ればいい、など消費者の生鮮品離れがすすむなか、いかに輸入品に対抗できる国産の加工用青果物を増やせるかが課題だ。
◆しっかり作ったものは真っ当に売りたい
赤松 光 コープネット事業連合理事長
コープネットは自給率アップや地産地消のため産直にこだわっているが、価格問題は避けて通れない。「登録米」やカタログでの産地情報PRなどで、国産品の消費拡大をすすめている。
この先、食生活の変化だけでなく人口も減る。年を取ると生鮮野菜・果物や魚の消費は減り、簡単便利な食べものに流れる傾向がある。供給過多が続くので、需要を増やすような政策を打ち出さない限り解決しないだろう。賃金が下がり続け国産品を選ぶのもなかなか難しいなか、いかにして生産者のことを考えてものを食べてもらうか。「日本を食卓から元気に」するため、しっかり作ったものは真っ当に売るということをこれからも続けたい。
◆ブランド統一・ロット拡大で交渉力強化
杉山忠雄 JAはが野常務理事
合併後も旧JA単位の部会が強く地域格差が大きかったため、ブランド統一やロット拡大による交渉力強化をめざした。02年に市場よりも実需者ニーズを重視した販売戦略に転換し、量販店のバイヤーなどからも情報を集め、パックや規格の小型簡素化を実現。生産者の労力軽減と品質向上をめざし04年に建設したイチゴ中心のパッケージセンターは、3年目には取扱高20億円を突破し、現在は4カ所でナス、ゴボウなどにも対応し09年度取扱高34億円に成長している。
03年には全国的にも早い時期に、営農経済渉外員ACSH(アクシュ)を設立。認定農業者1900戸を10日に1回は訪問し、総合的な営農相談を行っている。
◆選ばれる産地から選ぶ産地へ
久保芳宏 JA全農とちぎ園芸事業部
栃木県の青果物販売額は09年に450億円あったが、13年には300億円ぐらいまで落ち込む見通しだ。昨年から全部門あげて販売力強化と物流改革をめざしている。
若い人ほど、明確な目的を持って買い物に来ることがない。産地としても、農家の想いを無駄にせず、生産物の価値をしっかりPRできるような売り場づくりをする必要がある。県では価格形成や建値が市場で壊されないよう、取引市場を16から7に減らし、選ばれる産地から選ぶ産地へ変える努力をしている。JAと付き合えば安心して生産・生活ができる、という仕組みづくりを生産者と協同でつくっていくことが必要だ。