◆地域の協同への支援が不可欠
政策提言案のタイトルは「協同組合の役割発揮による農業・農村の活性化に向けたJAグループの政策提言」。
提言案では、3月末に閣議決定した新基本計画に盛り込まれた「国民全体で農業・農村を支える社会」を実現するためには(1)農業・農村の多面的機能を国民全体で支える新たな直接支払いの創設、(2)食料の安定供給を実現する品目政策と経営所得安定対策の確立、(3)将来の農業・農村の担い手へのセーフティネット対策の確立の3つの枠組みが必要だとしている。
同時にこれらの政策の前提として国際貿易交渉での適切な国境措置の維持が必要であることを指摘している。
また、今回の政策提言では協同組合の役割についても強調した。「農業・農村の問題は市場原理主義や規制緩和で解決することは困難」と指摘。「地域の協同の取り組みの重要性が再認識されるべき時代」になっており、食料・農業・農村政策を国家戦略として位置づけたのであれば、「協同組合の役割発揮を通じたより豊かな経済社会の実現に向けた取り組みを推進・支援することが不可欠である」と提言している。
◆すべての農地対象に新たな直接支払いを
農業活性化策の第一の柱として提起した新たな直接支払い制度とは「すべての農地を対象にした新たな交付の仕組み」が必要だというものだ。
農業の多面的機能は価格に反映されず国民に無償で提供されているとして、これを維持するためにはすべての農地を対象に地目に応じた支払いを実施して10年後に461万haを維持していく必要があるとした。
支払い水準は、食料安保や多面的機能を営農活動で維持できるような所得の安定確保を考えて検討すべきと提起している。
また、現行の農地・水・環境保全向上対策の抜本的見直しも必要だとしている。
具体的には、現行対策は農業用水など資源保全のための活動を交付対象にしているが、これに加えて医療活動や高齢者福祉活動、生活文化活動、さらに消費者との交流活動など、「コミュニティの維持」や協同活動を支援する直接支払いとするというものだ。
さらにこれに加えて中山間地域や離島などには条件不利地域対策として直接支払いを充実させるべきだとしている。
創設を求めるこの新たな直接支払い制度は、農地や品目にかかわりなく農業者の営農活動をいわば岩盤として支える支払いと地域への支援部分からなっているといえる。
◆品目対策では需給調整対策も必要
新たな直接支払いを下支えとし、そのうえで食料の安定供給確保のためには、品目政策と経営所得安定対策が必要だというのが第2の柱だ。
このうち水田農業対策では、▽主食用米について政府の責任の下での需給と価格の安定対策の確立、▽自給率向上に向け二毛作助成の大幅拡充、▽棚上げ備蓄の速やかな実施による需給調整対策などが必要だと提起している。
また、麦・大豆については現行の経営所得安定対策を見直し、当年産の実績面積に基づく対策や、数量・品質に基づく対策を充実させ、再生産が可能になる十分な所得確保策が必要だとしている。
その他の品目でもセーフティネット対策の充実などを提起したほか、都市農業についても「都市農業振興・都市農地保全法(仮称)」の制定などの考え方を示した。
これらの対策に加え、担い手を確保、育成していくための政策として、多様な担い手を面的に集積することなどへの支援や、生産者拠出を前提とした収入・価格変動の影響を緩和するセーフティネット対策が必要であるとしている。
◆規制改革分科会に反論
WTO・EPA対策と食料安全保障政策の確立についても提言。
ここではわが国の食料安全保障は、国内生産の維持を基本に備蓄と輸入を組み合わせるのが基本だとし、関税の大幅な削減を前提とした所得補償ではなく、重要品目については適切な関税水準を確保することが必要である、と強調している。
提言案で大きく打ち出した協同組合の役割については、行政刷新会議のもとに設置された規制・制度改革分科会の農業分野の議論への批判・反論でもある。
協同組合が役割を発揮して農業・農村の活性化をはかるには「市場原理主義のルールを協同組合に押しつけるのではなく相互扶助を基礎とした協同組合の仕組みや制度を積極的に評価する必要がある」と強調した。
また、具体的にはJAや連合会の共同経済事業を支えている独占禁止法の適用除外措置は欧米でも措置されていることから、引き続きこれが必要なことだと指摘している。
この提言案をもとにJAグループ内での協議はもちろん関係各界に発信し、国民合意の政策を作り上げていくことが求められている。