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レイドロー報告から30年、その意義を議論  協同組合学会

 協同組合は全人類的な課題に応える運動を展開すべきと提唱したレイドロー報告から今年で30年になることから、協同組合学会は5月29日、「レイドロー報告30年―協同組合運動におけるその意義と現代性」をテーマに09年度春季大会を開催した。
 レイドローが提起した課題に日本の協同組合はどれだけ実践しているのかを検討するとともに、政府による独占禁止法適用除外見直し問題や協同組合基本法制定の必要性なども議論された。

◆日本を評価した意味

レイドロー報告から30年、その意義を議論  協同組合学会 協同組合地域社会の建設を提唱したレイドロー報告は、日本の総合農協や生協について高い評価を与えた。
 関西大学の杉本貴史教授は「これは協同組合関係者にとって思いもかけないショッキングな問題提起だった」と指摘。1980年当時、日本農業の衰退に歯止めをかけ、経済事業の立て直しなどに苦闘していた日本の農協をレイドローは「コミュニティの協同組合化の先駆例として総合農協を描いた」(杉本氏)。
 生協は、欧米の生協運動が大手量販店との競争激化のなかで、組合員の顧客化やスーパーマーケット化していったなかで、日本では「班」を基盤にした組合員参画型運営が「奇跡的に維持され」(杉本氏)ており、それをレイドローは高く評価した。さらにそれ以上に、消費者主権のための協同組合ではなく、社会を守る協同組合であれと説いた。
 「農協は農業者だけではなく地域の守り手なのであり、生協も消費者のことだけを考えてはいけないとレイドローは説いた」ことを杉本氏は改めて強調し、また、社会の改革・改善を「1種類の協同組合にだけに期待するのは荷が重すぎる」とレイドローは指摘しているとして、協同組合間協同や、協同組合の多目的化も提起されたと紹介した。
 ただし、現在のJAはたとえば准組合員数の増加や大規模化という問題があり、また、生協はその事業基盤を事業連合組織に依存、レイドローが評価した組合員参加型運営ができているかなど、協同組合が果たすべき社会性の発揮と組合員参加をいかに両立させるかは今も課題となっていると杉本氏は提起した。

◆今こそ協同組合は挑戦を

 生活クラブ生協グループのシンクタンクである市民セクター政策機構の澤口隆志理事長は、生活クラブ生協の活動がレイドロー報告が提起した食や地域社会づくりをどう実践してきたかを報告した。
 生活クラブは「生活の問題、地域の問題を自分たちで解決しようと立ち上げた運動。生協をつくろうとしたわけではない」と澤口理事長は強調。「生産する消費者運動」としてJA庄内みどりなどとの米年間予約登録運動と農業支援活動や、生活点に働く場をつくるワーカーズコレクティブの活動を紹介した。
 「組合員への教育は“共育”と言っている。国産を食べようというだけでなく生産との触れあいから自分で気づいていく。それが援農の実践になった」として、今こそ協同組合が横断的に食と農、雇用創出や地域社会づくりに挑戦すべきと提起した。
 ただし、民主党政権が打ち出した「新しい公共」の考え方では「米国型の社会的企業家」重視であり「協同組合が位置づけられていない」ことを関係者は認識すべきと指摘した。

◆協同組合基本法の制定を

 東京農大の白石正彦名誉教授はレイドロー報告は「協同組合は、社会的な目的に先導されて、組合員のための経済的目的を果たす」というかたちでの結集を提起したと指摘した。ただし、日々の事業は組合員の暮らしのなかから生まれてくるとして、今のJAにとっては「組合員との接点である支店を重視すべき」と強調した。また、協同組合が軽視されるような政策的動きに対しては、地域でモデルを示していくことが重要で、総合農協の方向として多様な地域住民よる食、農、福祉までを視野にいれた「総合農村協同組合」として
発展していくことを提起、政策的にもその支援が必要だとした。
 学会では政府の農協に対する独占禁止法適用除外見直しの動きに対して座長の堀越芳昭山梨学院大教授が「(公正な競争を確保しようという)独禁法の精神の担い手こそ協同組合。農協だけの問題ではないことをしっかりと認識すべきだ」と強調した。
 また、堀越教授によると世界の9割以上の国で統一協同組合法を制定しているとして、協同組合の価値を明記した基本法制定もわが国も検討すべきではないかとの議論も出た。


【レイドロー報告】
 カナダの協同組合指導者・研究者のアレクサンダー・レイドロー(1907-80)が1980年のICA(国際協同組合同盟)第27回モスクワ大会で報告した「西暦2000年における協同組合」と題したレポート。同大会で採択された。
 西暦2000年を展望し、協同組合は全人類の正義に基づいた新しい世界と社会秩序づくりに貢献する役割を担うと提唱。取り組むべき優先課題として(1)飢餓、(2)労働(雇用創出)、(3)社会の保全(持続可能な社会)、(4)協同組合地域社会の建設、の4つをあげた。協同組合は自らの経済的目的とこれらの社会的目的を一致させて活動することを提唱した。

(2010.06.17)