農政・農協ニュース

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オープンイノベーションをめざす全農 加藤全農専務が日本農業普及学会で講演

 農業普及に関わる人たちによる日本農業普及学会(会長:木村伸男岩手大名誉教授)は「普及・営農指導・試験研究のトライアングルによる技術・経営革新支援」をテーマに、6月16日、全農営農・技術センターでセミナーを開催し、JA全農の加藤一郎専務が「オープンイノベーションをめざす全農の普及への期待」と題して基調講演を行った。

意見交換で発言する加藤専務(左)、隣は木村会長

(写真)
意見交換で発言する加藤専務(左)、隣は木村会長

◆蓄積したエネルギーが出口を失った「鬱の時代」

 産業界では技術開発コストの上昇、製品ライフサイクルの短縮が進むなか、「企業が社外の保有技術を社内の保有技術と同じように用いることにより、迅速な製品化をめざすオープンイノベーション戦略が注目されている」。このセミナーは、農研機構との連携など「オープンイノベーションをめざし新たな動きを進めている全農からの報告」をもとに、関係機関の連携のあり方を考え、深めようという目的で開催された。
 加藤全農専務は、この基調講演で、今日の状況を「躁(そう)の時代から鬱(うつ)の時代へ変わった」と位置づけ、躁の時代の思想は「市場原理主義、売上市場主義」であり、鬱の時代の思想は「スローライフ、エコロジー」であるとした。そして、「鬱」はもともとエネルギーが蓄積し、そのエネルギーが「出口を失っている状態」のため、その「出口対策がポイント」であり、イノベーションが重要だと指摘した。
 そしてイノベーションとは、生産技術の革新・新機軸だけではなく、「新商品の導入、新市場の開拓、新しい経営組織の形成などを含む概念」(J.シュンペーター)であり、幅広く考える必要があることを強調した。


◆田植機の発明と作業の高速化

 日本農業におけるイノベーションの事例として「田植機の発明と作業の高速化」をあげ、た。歩行型人力田植機の発明から始った田植機は歩行型動力機へ、そしてクランク式からロータリー式へ改良され作業効率が大幅に改善されたことで、100%の水田で実用化されている。
 さらに農機メーカーと全農が共同開発した「側条施肥機」(30%の水田で実用化)、施肥量の低減と省力化を実現した「被覆肥料」、体系防除からの転換と省力化を実現した「一発処理除草剤」の開発など、メーカーと全農が共同で開発し「出口対策があったから普及」し成果をあげた。


◆農研機構との連携は「研究成果の出口」づくり

 全農の営農販売企画部設置の理由と新しい営農・技術センターの役割・機能については「販売があって生産がある」を基本コンセプトにしたと紹介。とくに、農研機構や大学・企業・海外研究機関との連携は、その研究成果を生産・流通・販売そして環境問題や人づくりまでに活かす「試験研究の出口」と位置づけた。
 これからの農業イノベーション実践に向けた課題として、▽作ったものを売るプロダクトアウトからマーケットイン、▽技術開発の促進とオープン化、▽生産と販売のマッチングをあげた。
 そしてトヨタが「1000万台を売る」という販売台数を目標にした戦略から「1000万人に望まれる車をつくる」に変えた。つまり「誰のために生産するのか」の「誰」が変わったわけで、そうした「異業種からのヒント」も重要だとした。
 そういう意味でTAC(担い手専任担当者)の取り組みは、「生産者の悩み=出口は何かを一緒に考えていくこと」にあると語った。
 そのうえで「技術はもともと内向型の鬱のエネルギーである。“鬱の時代”だからこそ、普及という出口対策によるエネルギーの変換がより需要になっている」と、加藤専務はこの講演を締め括った。

(2010.06.28)