独禁法適用除外の解除論
「国連宣言」と逆行
系統経済事業は協同組合運動そのもの
JA全農・加藤一郎専務理事に聞く
◆独禁法の適用除外は国際的に共通する考え方
――最初にJAグループをはじめとする協同組合に対して独禁法の適用がなぜ除外されているのか、その基本となる考え方と、今回の議論の問題点をお聞かせください。
農業生産は、天候などの影響を受けて作況が変動することもありますし、食料の安定供給をはかるという観点からも、共同出荷、保管や共同計算行為が不可欠です。これはEUや米国など諸外国においても同じで、協同組合は国際的にも独禁法の適用除外とされています。
米国では反独占立法(反トラスト)の促進者が農民でした。こうした事実のもとに、米国の協同組合法は独占禁止法と密接な関係にあり、米国の反トラスト法のもとで、協同組合の行為を独禁法適用除外とする規定の存在意義は極めて大きいわけです。
したがって、今回の規制・制度改革分科会農業WGの一部の委員のような、連合会を単に外形的な規模の基準で適用除外をはずそうとするのは、独禁法の適用を不安定なものとし、混乱を生じさせ、ひいては協同組合そのものの否定につながりかねない問題を含んでいます。また、わが国の農協法の専属利用契約も米国の協同組合法を受け継いだものです。
◆高シェアは安定供給求める組合員の結集力の結果
――今回の議論で事業規模が大きいとされたのは、肥料の事業のようですね。全農の肥料事業と独禁法、系統肥料事業の意義についてどう理解すべきでしょうか。
一部で、行政刷新会議は「全農の化学肥料のシェアは7割に上り、寡占化が進み、実質的に独占的地位を行使して価格競争を縛り易くなっていると判断。独禁法の例外規定を見直し、全農に原則適用する方向が強まっている」(日経新聞5月26日付け)と報道されました。
まず事実関係ですが、全農の化学肥料のシェアは6割で、JAの農家に対するシェアは8割、となっています。
これをもって市場シェアが高いから適用除外の対象外とすべきだという主張がなされたわけですが、これは不適切な主張です。シェアが高いのは農家組合員の結集の結果。もちろん結集するか否かは組合員の任意です。
農家やJAがかつてより大きくなった今日であっても、市場において有効な競争単位として競争する観点からすると、単独で対応するのは困難な場合が多く、連合会の補完機能が必要となります。つまり、農家組合員やJAがそうした補完機能を発揮するよう求めた結集の結果として市場シェアが高いのであって、われわれにはその期待、負託に応える事業が求められます。
とくに肥料の場合はその品目特性にも留意する必要があります。
肥料成分の3要素である窒素、リン酸、加里のうち窒素原料を除いて、わが国はほぼ100%原料を輸入に依存しています。しかも、世界の燐鉱石、加里の山元は数社に寡占化されている。市場経済、市場原理が最も進んだといわれる北米ですら、加里の山元はカルテルの適用除外として、輸出組合を形成し独占販売をしているわけです。
燐鉱石にいたっては、米国は突然に輸出を禁止する措置を実施し現在に至っています。
つまり、「肥料原料」はもはや単なる「原料」ではなく「貴重な代替不可能な天然原料」とみなされ、一企業の戦略から国家戦略のなかに組み込まれているといっても過言ではないと思います。したがって、肥料原料については、今や国際相場云々よりも、安定確保をいかに実現するかが課題となっているのです。そのためにも農家組合員の結集力を基盤にした購買力の強化が必要になります・・・。
(続きは「シリーズ第4回 「独禁法適用除外の解除論―『国連宣言』と逆行」で)
(第1回 「協同組合セクターの連携強化を」加藤好一・生活クラブ生協連会長)
(第2回 「協同組合への理解を広める」冨士重夫(JA全中専務)・田代洋一(大妻女子大学教授)対談)
(第3回 「『浜』がJF―漁協―の原点」JF全漁連専務理事・山本忠夫氏)