農政・農協ニュース

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地域で活かせる「産地資金」を創設  戸別所得補償制度

 8月末の23年度予算概算要求に向けて政府と民主党が一体となって政策を検討している農林水産部門会議に、農水省が来年度から本格実施する「戸別所得補償制度」の検討方向を8月11日に示した。今年度の水田利活用事業で助成水準を補うために導入された激変緩和措置は、地域特産物の振興など地域の裁量で活用できる「産地資金」を創設するなどの方針を打ち出した。
 民主党はこの問題のWT(ワーキングチーム)で検討を進めており、農水省は今後の部門会議での意見とも合わせ概算要求時に概要を決定する。

部門会議で検討方向提示


◆畑作は数量払を併用

 

 戸別所得補償の対象品目は「米、麦、大豆、てん菜、でん粉原料用ばれいしょ、そば、なたね」とする方向だ。
 さとうきびとでん粉原料用かんしょは、品目ごとに生産コストを補てんする対策があることからこれを継続するとしている。
 生産数量目標に従って生産された米については、モデル対策で全国一律10aあたり1.5万円交付とした固定部分と価格下落に対応するための変動部分の交付金で支援する。米価下落による収入減少を補う、いわゆる現行のナラシ対策はなくし変動部分の交付金に一本化する。
 変動部分を決める当年産の基準価格は、価格をとる期間をできるだけ長くする考えで、出来秋から翌年3月までの平均価格を使用する方針だ。交付金の支払いは5〜6月ごろになるという。
 一方、畑作物について農業者の単収増や品質向上の努力を反映させるため、面積払いと数量払いを併用する仕組みとする。
 面積払いの交付単価は、収量が大きく落ちた場合でも経営を維持できる最低限の補償水準を品目ごとに決め、10aあたり単価を算定する。対象面積は過去の作付け実績ではなく当年産の面積とする。
 一方、数量払いの交付単価は、全算入生産費をベースに標準的な生産費を算定、標準的な販売価格との差額分を60kgあたりの単価として設定する。この畑作物に対する事業では生産意欲を高めるために数量払いの比率を高める方針だ。

 


◆地域の自由度高める

 

 水田での麦、大豆、新規需要米などの生産を支援する水田利活用自給力向上事業の枠組みは残し、主食用米並みの所得を確保できる水準の単価を今年度のモデル対策と同様、面積払いで交付する。
 今年度のモデル事業では麦・大豆が10a3.5万円の一律単価とされたことにともない、交付水準が従来と変わらないように地域で活用できる激変緩和措置が導入され、それによる上乗せが可能になった。
 来年度からは、現行の激変緩和措置をなくし、地域特産物の振興、戦略作物の生産性向上などを支援する「産地資金(仮称)」を創設する方針を打ち出した。 産地資金の活用の仕方は、県一本の基準とするか、市町村、協議会レベルで決めることができるようにするかなどは「県にまかせる仕組みにしたい」(篠原副大臣)という。
 生産数量目標の設定や申請・交付、作付け面積確認などの事務を行うため、現在の地域水田協議会や農地・水・環境保全向上対策のための協議会など複数設置されている地域の協議会を市町村で一本化する方針も示している。
 生産数量目標は「食料・農業・農村基本計画」で定められた10年後の生産数量目標の達成に向けて、都道府県、市町村と農業団体や実需者などが参加する前述の一本化した協議会で意見を聞いて決める仕組みとするという。

 


◆政策目的に即し加算


 交付金の加算措置も注目が集まる課題で部門会議では議員から「努力した人が報われる加算を」との意見があった。こうした意見に対し篠原副大臣は「ただ、努力した、というのではなく、自給率向上や耕作放棄地をなくすこと、米の需給均衡の達成といった政府の施策を理解してやっていただける方により多くなるような加算を示したい」としている。
 検討方向では畑作物を対象に品質に応じた「品質加算」ほか、耕作放棄地を解消しそこに麦、大豆など自給率向上に寄与する作物を作付けることを5年程度支援する「再生利用加算」、集落営農が法人化する場合のかかり増し経費を1年限定で補う「集落営農の法人化加算」、輪作作物の間に1年栽培を休んで地力向上をはかる休閑緑肥に対する「緑肥輪作加算」などを提示した。
 その一方、規模拡大や農地集積、担い手に対する加算は全国一律単価とすることで「コスト低減へのインセンティブが高まる」として当面は必要がない、という方針を示している。
 また、条件不利地域や環境に対する支払いは中山間地域直接支払い、農地・水・環境保全向上対策を拡充させることで対応するという。
 部門会議は政権交代後に設置された政府側の政策会議と、党側の議員政策研究会を一体化させた政策調査会の機関。戸別所得補償制度では仕組みや単価、交付対象などについて政府側からの説明の場とせず、具体的に議論を進めるとしている。

 

戸別所得補償の検討方向

(2010.09.06)