「生産したものを売る」から
「市場が求めるものを作る」へ
◆景気低迷と果実販売
東京青果(株)の大井副社長は最近の果実をめぐる状況について「産地から業界まで収縮」との厳しい現実を指摘した。
平成3年の卸単価指数を100とすると、ピークは昭和62年の124で平成に入ってからは「右肩下がり」で落ち込み、平成21年には69となったという。
平成10年からはデフレ傾向もくっきり。同年の果実の消費者価格指数を100(全都価格)とすると21年には80ポイント前半にまで低下した。昨年度はこれに需要の急減も加わったという。そこに卸売市場法改正で取引の自由化が進み競争が激化している。
この間の変化を輸入果実との関連で指摘したのは三重大学の徳田准教授だ。農産物自由化で輸入量が増えたものの、バブル期には「国産=高級品、輸入=大衆品」との棲み分け構造があり、そのなかで国産品価格の上昇もみられた。
しかし、景気低迷で高級品需要そのものが「崩壊」、需要の減退と価格低迷をもたらしたと指摘した。
◆市場対応をどう強化するか?
こうした状況をふまえシンポジウムでは、▽消費ニーズの変化に対応した生産・出荷体制による新たなブランドづくり、▽従来の委託販売だけではなく産地と卸が連携した契約販売など多様な販売による生産者手取りの向上などの方策が提起された。
JA新ふくしまの吾妻代表理事組合長は、生産面では農薬使用を削減するなどの安心・安全な果実生産による信頼性向上と、販売面での早期相対販売取引の拡充、専任職員を配置した企画商品の提案など直販部門の充実といった取り組みが報告された。
また、JAみっかびの元営農部長の清水氏は異業種との交流などから新たなビジネス展開の発想を得るなど、JA職員の意識改革が必要なことを強調した。
参加者を交えたディスカッションでは、改めて産地自身が需要構造と取引形態が大きく変化していることを十分に認識すべきだということが強調されたうえで、▽産地基準ではなく消費者基準のモノづくり、▽産地が自分たちの能力を見極め、卸など市場関係者との連携によるメリット発揮、▽組合員自らによるブランド品の底上げ努力とJAによる提案型販売、▽販売専任担当職員の育成と設置などが指摘された。
ただし、価格形成については農業が持続できる「再生産が可能な価格が大切」との点も強調された。
シンポジウムで強調された契約栽培を実践するにしても、再生産価格を念頭に、たとえば3年程度の価格設定が交渉では求められるのではないかということだ。
この問題に対しては、パネリストから「卸自身も生産者サイドに立って価格目標をつくり努力すること」、「JAが買取事業などの実践で再生産価格を実現する」といった意見のほか、「生産者自身も市場に確実に出荷するといった行動を示し市場から信頼を得ることが大切。それが高価格につながる」といった指摘もあった。
司会をつとめた北出俊昭元明治大学教授は「需要と価格形成が構造的に大きく変化していることを関係者は認識すべき。作ったものを売るのではなく、市場から求められているものを作る。JAの販売力強化が問われている」とまとめた。
報告(1)
発想の転換で農産物の流通や農業・農協の構造改革を
元JAみっかび営農部長・清水理氏
農産物を1円でも高く売り生産資材は1円でも安いものを使うというのが組合員の願望だ。それをJAが実現できないとなれば自ら販売し自ら安い生産資材を調達せざるを得ない。今はまさにJAの正念場だ。
農家手取りの最大化に向けたJAの方策には直接的方策と間接的方策がある。
直接的方策はまずコスト削減。流通経費をいかに圧縮するか。JAが一丸となる必要がある。青果市場と一枚岩となって業務にあたることも大切だ。かつては青果市場が産地を育てなければという強い意識があった。これを復活させたい。
下級品、規格外品の商品化、付加価値化にも力を入れたい。三ヶ日では食肉卸業者の発想から肉を柔らかくするために原料ミカンのペースト化利用を実現した。キロ5【?】7円の原料ミカンがキロ30円になった。既成概念を捨て異業種との協同でビジネスチャンスをつかむ。
間接的方法では、JAに販売専任担当者をつくること。売れるものを見つける職員を育成する。同時に組合員の意識改革も大事。かつて三ヶ日で青島温州の苗を普及したとき農協が供給したにもかかわらず農協自らが異品種混入がないか、組合員の園地でチェックした。一部には不良品を供給したという実態があったが組合員からのクレームはゼロだった。「組合員のために」という姿勢を実践で示したからだ。
JAは安全策ばかりでなく失敗を経験し新しいことにチャレンジすべきだ。そのために組合員とのパイプをとことん太くする体制整備に向けてアクションを起こすことが大事だと思う。
報告(2)
市場流通の現状とこれから―果実の販売戦略
東京青果(株)大井溥之代表取締役副社長
果実の卸売単価指数を平成3年を100とすると21年は76。数量は同69となり果実全体の売上高は3分の2に減った。価格の長期低落傾向に加えデフレ、直近では需要の大幅減もある。
この10年でみると生産量は11ポイント、消費量は3ポイントの減だ。だから、今後、供給量減で単価は上がる、という見方できるかもしれない。
しかし、卸売市場法の改正で取引自由化が進み競争は激化している。
そのなかで果実の価格をどう上げ農家手取りの最大化を図るのか? その1つが取引方法を増やすことだ。
これまでの現物取引には1週間先、1か月先の取引が見えないことから量販店や外食産業は満足しない。これを契約取引とする。
量販店、卸、産地が相談して数量と価格、納期を決める。産地にすれば売り先、消費者まで決めた一気通貫取引であり、価格を固定した「納める取引」、「届ける取引」を増やすことによって平均販売価格を上げる。卸からすれば従来の仕入れ代行取引から、販売代理型取引への転換ということになる。
プロダクトアウトからマーケットインへ。生産した農産物を売るという時代は終わり、産地も契約による「納める農業」へと変わる必要がある。
●卸と連携し「納める農業」を
そのためには産地と卸間に強固なパートナー関係をつくる必要がある。量販店のバイイングパワーが強大なのが実態。産地と卸が連携し安定供給と適正な価格形成をめざすことが大切だ。
報告(3)
JA新ふくしまの農家手取り最大化の取り組み
JA新ふくしま・吾妻雄二代表理事組合長
JAは平成24年に販売高100億円をめざしている。現在、果実の販売額は約45億円。全体の6割を占めている。
地域農業振興プランでは安全・安心な農作物生産体制の確立を掲げ、「信頼性の確保」、「生産性の向上」、「手取り単価のアップ」をめざしている。
信頼性向上では、生産履歴記帳運動と果樹園へのフェロモン剤100%設置による害虫防除農薬の削減を進めている。
生産性向上では、老朽化園地の改善(リンゴ)、低樹高栽培の推進(モモ)、品種構成の見直し、新品種の導入(ブドウ)が柱だ。
手取り単価アップは販売対策が重要になる。
市場、量販店と連携しパック品や小箱対応などの特注品について、早期相対取引を進めている。
●早期取引実現を重視
パッケージセンターは付加価値による手取りアップ、企画商品による売り場確保などが狙いだ。早期取引実現は大切で、たとえばモモであれば「花がついたら商談に歩け」と職員には指示している。
また、リンゴでは3年前から生産者からの買取販売も一部で実施している。年内に概算払い金を精算し、販売終了後に最終精算をしているが、これまで販売実績価格の上昇で追加払いを実現してきた。
●担い手支援チームが定着
直販事業も強化し直売所「ここら」による地域直販は7店舗で14億円の実績を挙げているほか、販売営業担当者を配置して市場外流通の拡大も図っている。担当者は地元のホテル、百貨店、企業などへの営業活動に力を入れている。そのほか組合長、専務によるトップセールスも重視してきた。
担い手育成では、支援チーム「AST」が活動している。まずは担い手の苦情や不満などを聞く訪問から始めたが、最近では規模拡大等、経営相談を受けるようになってきた。そのほかに青年農業経営塾による後継者育成に取り組んでいる。
報告(4)
果実需給構造変化に対応した産地体制の構築
三重大学生物資源学部准教授・徳田博美氏
1985年のプラザ合意で円高が誘導された時期からバブル期にかけてわが国は農産物輸入が拡大し自給率が低下するが、実はこの時期、果実の国産品価格は上昇していた。
それは国産品は高級品、輸入品は大衆品という棲み分けができたため。そのなかで生き残った農家、産地にとってはつかの間の好経営環境だったといえる。
その後、バブル崩壊からデフレ期に入っていく94年以降、果実価格は低迷していくがこの時期の輸入量は横ばいだった。つまり、消費不況で果実の高級品需要が崩壊し、一方では大衆品は輸入果実に席巻されたことによる価格低迷であり、それによって厳しい経営を強いられることになったといえる。
苦境から脱却するためには、多様な需要構成と一致した価格・品質の提供、多様な商品構成に基づく総合的な販売数量と金額が確保が求められる。
また、量販店の低価格戦略に巻き込まれず、消費者ニーズに適合した商品構成を実現する必要もある。
光センサーを導入したあるモモ産地では、高糖度のものでもアイテムを多様化した。小玉はパック詰めのお買い得品として販売するなど販路拡大に努力している。
温州みかんは特秀、秀品は果実専門店や高級量販店、優品は一般量販店、良品はディスカウンターといったように売り先と密接に対応する傾向がみられる。そこで産地によっては、作柄に合わせて上位等級にできるものを下位等級に落とすといった調整によって売り先構成に即した販売を実践しているところもある。
また、甘夏は多くの産地が撤退するなか全国販売力を実現している産地がある。
他にも、多くの産地が前進出荷を追求するなかで年明け出荷によって優位性を確保している産地もみられたり、地方の特定市場にのみ出荷するなど地産地消型の産地形成による出荷地域の棲み分けもみられる。
このように今後は高級品にのみ依存せず、消費者ニーズに応じたバランスのとれた商品構成をめざすことが大事だ。また、卸市場との連携は重要だが、産地自らが販売力をつけることを前提にすべきだろう。
農協研究会
現地シンポジウム
現地視察
農産物販売高100億円への挑戦
JA新ふくしまの販売2拠点の取り組み
農業協同組合研究会は9月25日の現地シンポジウムに先立って、JA新ふくしまの施設見学会を行った。シンポジウムの講師陣も含めて、40人ほどが参加した。
◆果実の高付加価値化を担う5共選場
JA新ふくしまの農産物販売取扱高は77億3000万円(平成21年度)だ。24年には、これをJA合併当時(6年)の100億円にまで伸ばそうと、付加価値の高い商品づくりに取り組んでいる。実際の販売額も18年以降は毎年前年比を上回り、22年は85億円を越える勢いだ。
その販売額の58%を占めるのが果実である。
同JAでは5つの共選場(湯野、西部、庭坂、野田、平野)で、9年に国庫事業として果実に直接触れずに糖度・熟度・内部のキズなどを瞬時に判別する透過光方式センサーシステムを導入し、果実の高付加価値化を実現している。そのほかロボットによる自動箱詰め選果機もあり、手作業によるキズを減らしコスト削減をしている。
この日、訪れたのは福島市笹木野の野田選果場だ。バケット式とフリートレイ式の2ラインがあり、1日の処理能力は6500箱。モモ、ナシ、リンゴと幅広い品目に対応している。
同JA管内では、主要果実だけでも7品目58品種と幅広く多彩なため、6月初旬の黄桃から始まり、ナシ、リンゴ、柿の晩生種が終わる11月下旬まで集出荷作業が続く。
9月の中下旬はナシの豊水、秀玉、二十世紀などが出荷最盛期であり、野田の共選場にはナシの甘い香りがあふれていた。敷地内には販売スペースもあり、箱詰めされたばかりの新鮮なナシが直接発送されていた。
(写真)野田共選場
◆直売所「ここら」のコンセプトは、地元密着で小規模多店舗
同JAは12年6月に農産物直売所をオープンし、今年で10周年。開店以来、店舗数、出荷会員数、販売額は右肩上がりで、21年は7店舗、1300人、14億円にまで成長した。
直売所運営は農家組合員の手取り向上はもちろんだが、消費者と生産者の橋渡し、女性の社会参画、雇用創出、環境・フードマイレージへの貢献などもめざし、敢えて大型店舗ではなく地元密着型の小規模多店舗運営をしている。
21年6月には7店舗の名称を「ここら」に統一し、ポイントカードも導入した。ポイントは利用者へ還元されるだけでなく、年間の総発行ポイント数に応じて地元の小学校に『ちゃぐりん』を送る地域貢献・食農教育活動の一環にもなっている。初年度となる昨年は、110部(すべて年間購読)ほどを各校に寄贈した。
視察で訪れたのは、共選場の跡地を有効活用した吾妻店。今年4月に福島市との共同事業として新装オープンした。市の多目的休憩施設を併設し、売り場面積も拡大。昨年まで2億円ほどだった年間販売額は、3億5000万円にまで増加する見込みだ。
「ここら」の販売額のうち26%は仕入品だが、そのほとんどは女性部や組合員のつくる加工品やJA共選品なので、取り扱う商品のほぼ100%がJA新ふくしま産なのが大きな特徴だ。
しかし地元産は冬の出荷量が少ない。直販課担当者によると「モモ、ナシの出荷が最盛期を迎える8、9月の売り上げは1、2月の3倍以上になる」ため、この季節間の差をどうするかが課題だという。
「ここら」吾妻店内では、米粉パンの制作・販売をする「ここらパン工房」、地元食材が中心の飲食スペース「ここら亭」も好評で、お昼時には多くのお客で賑わっていた。パン工房ではあんドーナツが大人気。モチモチ感たっぷりのパン生地とあんこの組み合わせは、いくつ食べても飽きない味わいだ。
(写真)「ここら」吾妻店の「パン工房ここら」の米粉パンも人気商品