◆一定の国境措置が大前提
JAグループがめざす農政は(1)農業の多面的機能に対する直接支払政策、(2)需給・価格の安定と生産振興をはかる品目別政策、(3)担い手の育成・確保と経営安定をめざす政策、の3つを柱に、農業所得の増大と自給率向上に向けて総合的な政策体系をつくるべきだというものだ。
さらに今回の政策提案では、政府が新成長戦略推進のため経済連携協定(EPA)への取り組み方針を11月までに決めるとしたことや、菅首相が臨時国会冒頭の所信表明で、関税撤廃を原則に交渉が進められている「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」への「参加を検討する」と発言したことを受け、
「戸別所得補償制度はEPAなど貿易自由化の代償措置ではなく」、国の責務である食料安保や自給率向上策として「明確に位置づけるべき」ことを強調した。
具体的には、需給と価格を内外の市場原理にまかせて農業者には差額を補てんをする政策ではなく、▽一定の国境措置のもとで需給と価格の安定をはかることを大前提とし、そのうえで▽生産性向上と生産振興努力を促す政策、▽地域の担い手の育成・確保や農地集積をはかる政策―を提起している。
また、農業の地域特性をふまえれば、とくに土地利用型農業がかかえる担い手や需給問題などは「全国一律的に生産コストと販売価格の差額補てんを講じたのみでは解決できない」ことも強調している。
(写真)
筒井、篠原両農水副大臣に政策提案を渡すJA全中の茂木守会長(右)と全中水田農業対策委員会委員長の中野吉實・佐賀県中央会会長。ほかに永田正利・JA全農経営管理委員会会長、木村一男・秋田県中央会会長(全中水田農業対策委員会副会長)、北中勇輔・滋賀県中央会会長(同)、冨士重夫・JA全中専務も同席した。
◆緊急需給調整の早期実施を
5つの政策のうち米の「需給・価格安定対策の確立」では、▽米の計画生産と出口対策の構築による需給調整、▽総合的な備蓄政策の確立、▽22年度における緊急需給調整対策の早期実施、を求めた。
22年産米の作況指数は全国「99」の平年並みと公表されたが、4万1000haの過剰作付けがあり26万トン程度の過剰米発生が見込まれている。さらに21年産米の持ち越し在庫が30万トン以上になる見通しだ。合わせて50〜60万トンの需給ギャップが生じかねない。
21年産米の相対取引価格は農水省公表では60kg1万3280円(8月発表、包装代・消費税相当額を控除)だが、全農の未契約米の提示価格をふまえると1万2000円〜1万1000円代の低米価になっていると全中では試算している。
また、販売が始まった22年産米の相対取引価格は1万2000円〜1万3000円(関東コシヒカリ、東北あきたこまち・ひとめぼれ等)となっており、戸別所得補償モデル事業の標準的販売価格水準の同1万3978円を大きく下回っている。
価格差に対して戸別所得補償制度では変動部分の支払いがあるものの、国の財政負担増とともに、▽数年にわたる低米価定着、▽在庫を抱える産地・生産者の所得減少、▽23年産米の全国的な生産目標数量の削減、といった懸念が産地で生まれている。こうしたことからJAグループは戸別所得補償制度に参加した農家ほど「営農への不安や制度への不信を招きかねない」として、過剰米の市場隔離や、23年度から棚上げ方式に移行する方向の米の備蓄を前倒し実施することなどを強く求めている。
JAグループはこうした政策提案を広く訴え政府に政策実現を求める「米の需給・価格安定と万全な所得補償を求める全国代表者集会」を10月19日午前、東京で開く。集会では合わせて「EPAに関する特別決議」も採択する予定だ。