宇根氏は講演のなかで、10月18日から名古屋でのCOP10開催が決定したことで注目を集め、耳にする機会の多くなった「生物多様性」について考えを述べた。
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「生物多様性」をはじめ「自然」や「風景」といった言葉は外来からやってきたもので昔は存在しなかった。言葉や概念はなくてもかつては百姓文化の中で認識されていた。しかし農業の近代化が進み「自然」という言葉を使うようになったことで、生きものを自分の世界とは切り離して見るようになってしまった。昔は生活する中で知らずに生きものへの“情愛”や“まなざし”を持っていた。
減農薬・減肥料への取り組みを推進したり、生きものの種類や密度、多面的機能がもたらす効果を金額で表すことよりも、農業が生物多様性に与えてきた大きな影響を自覚することや生きものに対する“まなざし”の衰えを認識することが大切だ。
農業は食べ物をつくるだけでなく人間の情愛を育むものであったのに、科学技術の発展によって失われ、経済価値以外のものには目を向けなくなってしまった。近代化が進めば進むほど見えなくなる本来の百姓仕事のなかに大事なものが眠っている。お金にならないものであっても、長い目で農業を見たときの価値を見直し、生きものへの“まなざし”を復活させる必要がある。