農政・農協ニュース

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女性パワーでJA運動を活性化  新世紀JA研究会第9回セミナーinJAにじ(福岡県)

 いま、全国各地でJA女性部員の減少や活動の減退をいかに食い止めるかが課題となっている。一方で、女性の力をJA運営、教育文化活動、地域交流・貢献などに活かしている例も多い。JA役職員同士の研究と情報交換などを通じてJA間の連携強化をめざす新世紀JA研究会は11月4、5日の両日、福岡県のJAにじで第9回セミナー「JA運動の底力―女性力と農産物直売所」を開いた。
 同会が"女性"をテーマにセミナーを開いたのは今回が初めて。足立武敏(JAにじ代表理事組合長)、森恵美(JAさが・佐賀みどり西川登支所女性部長)、大金義昭(文芸アナリスト)、石井信一(JAにじ営農部長)、緒方博修(JA地産地消全国協議会選任アドバイザー)、の5氏が講演。全国各地から女性部員なども含めて200人以上が参加した。(文中、敬称略)

200人を超える多くの参加者が集まった。女性の参加も多かった。(写真)
200人を超える多くの参加者が集まった。女性の参加も多かった。

◆望まれるJA運営への女性参画

 農業は女性の社会進出が遅れていると言われる。国の調査では、全国の認定農業者に占める女性の割合は3.0%、農協の役員では2.5%(ともに平成19年)と、他産業に比べて最も低い部類だ。
 しかし今や就農者の5割以上は女性。その役割の大きさは誰もが認めるところだ。何より女性が元気な地域は活気に満ちあふれている。
 セミナーでの講演は、それぞれJAとして女性部の活動をどう支援するか、どう発展させるか、その端的な例として農産物直売所の現状と課題などの内容で、会場との意見交換も活発に行われた。


◆JA運動の現場を体感し、学び、実践する

上:鈴木昭雄氏(新世紀JA研究会代表、JA東西しらかわ代表理事組合長) 新世紀JA研究会の鈴木昭雄代表(JA東西しらかわ代表理事組合長)はあいさつで、「JAにじ女性部の活発な活動は全国的にも類を見ない、素晴らしい実績がある」と讃えるとともに、「(研究会は)現場でがんばっているJAを訪ねて、その活動を体感するのが目的。ともに学び、実践につなげよう」と、参加者の自主的な研究と積極的な情報交換などを呼びかけた。
嶋田一義氏(JA福岡中央会会長) 来賓として麻生渡福岡県知事の祝辞のほか、嶋田一義JA福岡中央会会長が「営農も生活も大半は女性が担っている。女性が元気になれば地域もJAも元気になる。女性力を活かして、ますますJA運動を発展させてほしい」とあいさつした。

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上:鈴木昭雄氏(新世紀JA研究会代表、JA東西しらかわ代表理事組合長)
下:嶋田一義氏(JA福岡中央会会長)


◆事業所集約にはサービス拡大で応える

講演する足立武敏JAにじ代表理事組合長 セミナーではJAにじ女性部について、「一般的な地区別組織は解散したのか」「具体的にどのような支援をしているのか」など運営についてさまざまな質問があり、全国的な注目の高さが窺えた(JAにじ女性部の活動については10面の現地ルポ参照)。
 また、JAにじが平成8年に合併してから事業所や支店の再編を進めていることに対して「組合員からの反対意見はあったか」と問われ、足立組合長は「事業所を集約する代わりに年中無休、担当者の携帯電話番号を公表し山の中でも休日でも現場に直行する、といったサービス拡大で対応した。併せて、組合員教育として協同の大切さを説いて回った」と自身のこれまでの活動を交えて答えた。
 ただし、「理念だけを説いてもなかなかうまく行かない」。今年の11月1日から始まったJAにじ総合ポイント制度を例に出し「組合員になることで、確かな経済的メリットがあることを伝えることも必要だ」と述べた。

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講演する足立武敏JAにじ代表理事組合長


◆現場からのダイレクトな意見で政策実現を

初日交流会でのJAにじ女性部のフラダンス

 セミナーでは毎回、その時のテーマや農業・農協を取り巻く環境に即したアピール文を採択し、後日研究会の役員らによる各政党、行政、JAグループに向けた要請運動を行っている。
 セミナー初日に鈴木代表がこれまでの活動の成果として、二次加工米の利用目的変更についての補助金返還義務の免除、水田フル活用対策におけるWCSなどについての政策提言、JAバンク支援基金積立金の凍結、など多くの提言が実現していると発表した。
 鈴木代表はこれらの成果について、「さまざまな要因や働きかけがあった末の実現だと思うが、その中にはわれわれが現場からの意見をダイレクトに伝えたことも大きかっただろうと自負している」と胸を張った。
 今セミナーでも、JA運営への男女共同参画の推進のほか、戸別所得補償モデル事業への要請や、農業を無視したTPP交渉参加への強い反対などのアピール文(別掲)を満場一致で可決した。要請活動は年内に行う予定。

 次回のセミナーは2011年春、JAはだの(神奈川県)で開催することが決まった。詳しい日程やテーマは未定。

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初日交流会でのJAにじ女性部のフラダンス

【現地視察】

「女性部の結集力を実感」
秋晴れの農園で手づくりの昼食会

青年部による勇壮な虫追い 初日にはJAにじ田主丸地区青年部・パイオニアクラブが、JAにじ本店敷地内で伝統芸能「虫追い」を披露した。セミナー参加者だけでなく、Aコープに買い物に来ていた一般客も交えて喝采を贈った。
 「虫追い」は稲の害虫駆除と慰霊を目的に、江戸時代から行われていた筑後地方の喧嘩祭り。松明を焚き、鐘・太鼓を打ち鳴らし、源平合戦の様子を再現するもので、太平洋戦争を境に途絶えていたが、33年前に青年部が復活させて現在も3年に1度行っている。今年が12回目の開催。
 2日目には、JAにじの「耳納の里」と園芸流通センターの視察、柿狩りがあった。
 耳納の里の直売所「まんてん市場」の品目別販売額トップは、加工品で35%だ(野菜26%、果実22%がそれに続く)。主に女性部員やグループのつくった加工品がずらっと並ぶ様子を見て、「これだけの量が毎日出荷されるのは、なかなか見たことがない」と、驚く参加者もいた。
足立組合長の農園で柿狩りと女性部の手づくり昼食を楽しむ 柿狩り会場は足立組合長の農園だった。全体で1.6haほどの柿園を経営しているが、現在は摘蕾・摘花から収穫まで多くの作業を妻の民子さんが切り盛りしているという。耳納の里にも「民ちゃん柿」という似顔絵付きシールを貼って出荷している。
 爽やかな晴天の下、足立組合長夫妻、JA職員、女性部員らに熟した柿の見分け方や収穫の仕方などを教わりながら柿狩りを楽しんだ後、その場で女性部手づくりの昼食が振舞われた。
 昼食のメニューは地元食材のちゃんこ鍋、手づくりこんにゃく、ナスのピリ辛炒め、特産米「夢つくし」のおにぎり、など。この日のために3日前から準備していたというちゃんこ鍋は旬の食材がふんだんに使われていて、「とても、おいしい」と何杯もおかわりする参加者もあり、女性部員やJAの生活部職員もそれぞれメニューを解説しながら参加者と歓談した。昼食だけでなく、会に使われた100枚以上のテーブルクロスやシートもすべて女性部の手作りだと聞いて、「女性部活動が活発だとは聞いていたが、本当にすごい結集力を感じた」「2日間でエネルギーをわけてもらった気がする」と口々に讃えた。

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上:青年部による勇壮な虫追い
下:足立組合長の農園で柿狩りと女性部の手づくり昼食を楽しむ


【大会アピール(概要)】
1.
JA・連合組織の役員、幹部職員への女性の積極的な登用を通じて、男女共同参画型のJA運営への転換をはかり、JA女性力のさらなる発揮をめざす。
2.TPP(環太平洋経済連携協定)の問題点を明らかにし、安易な推進によって日本の将来方向を見誤らないよう政府に強く要請する。
3.政府に、産業・社会の両面の政策から農業者の所得確保と、米粉・飼料用米などの総合的な対策を求める。
4.JAグループは政府と連携し、農業の6次産業化にむけて具体的方策の推進に取り組む。
5.政府の規制・制度改革に関する分科会と農業ワーキンググループの参加メンバーについて、現場感覚を持つ公平な人選を要望する。
6.JAと全国連との間で現場感覚の醸成と意識の共有化をはかるため、相互の人事交流の制度化を要望する。
7.組合員・役職員教育を強化するため、JAや中央会・連合会からの出前研修に取り組む。
8.JAの社会的公器としての意義・役割を、JA全中を中心に内外に強力にアピールする。

 

【基調講演】

JA運動は幸せづくり
足立武敏
JAにじ代表理事組合長

足立武敏 JAにじ代表理事組合長 JA運動の大きな担い手は女性である。営農なら6割、生活・家計なら8割は女性が握っており、JAへの来所も3分の2は女性だ。しかし歴史的に農業は男社会であり、JAの正組合員になるのは男性だけだった。そこで女性が自由に発言して経営に参画するために、まずは正組合員になってもらおうと、平成12年頃から加入促進運動を進めた。今、女性正組合員は2000人を超え、全体の約3割を占めるようになった。
 正組合員の次に総代を増やす運動を展開し、12年に56人だった女性総代を、18年に88人、19年には110人と全体の2割にあげた。福岡県で初めて女性理事を登用したのもJAにじである。16年からは総代会の議長も2人のうち1人は必ず女性を選出するようにした。
 JA運動は幸せづくり運動である。
 「幸せ」というのは、経済的・健康的・精神的(心)に豊かになることだ。それを営農事業と生活文化福祉事業という車の両輪で実現するのがJA運動だと思っている。
 確かにJA事業の核は経済事業だから、私も若い頃は経済中心の考え方だった。しかし、お金があっても健康を害したり、家庭不和で近所づきあいも悪く心が荒んでいたら、それは幸せではない。
 やはりお金があって、健康で、心も爽やか。これが「幸せ」だ。それを実現するため必要なのがやりがいのある仕事であり、それを得るために、女性部員には「必ず役員をやれ」と言っている。
 以前は、面倒なことは嫌だから役員が回ってくる前に女性部を辞めるとか、地域まるごと女性部を廃止するとか、そういうことがあった。しかし、役員になればやりがいができるし、仲間ができる。
 「幸せづくり運動」は人から与えられるのではなく、自分たちで協同して得る運動だ。自分のやったことで他人が喜び、その達成感が生きがいになって健康も維持できるし、家族も地域もみんな心が豊かになる。そういう社会づくりをするのが本当の協同組合運動だろう。


【講演 1】

楽しい連鎖をつなげて、
JAファンづくりを
森恵美
JAさが 佐賀みどり西川登支所女性部長

森恵美 JAさが 佐賀みどり西川登支所女性部長 全国のJA女性部などを中心にレクリエーションの講師をやっているが、どんな地域でも大抵一番元気なのはシルバー世代。フレッシュミズの講演会なのに60代の方が参加している場合も多い。JAはそういう現状を把握していないのではないだろうか。
 若い世代が育たないのは、女性部は少ない・つまらないなどの批判や、共同購入などの昔からの慣習がずっと残っていて、ますます人がよりつかない、という負の連鎖があるからだ。
 組織の全体目標と個人の意識には温度差がある。「一人ひとりの力を結集する」と文章で謳ってあっても、実際には末端の意見はなかなか伝わらない。だから、女性部員一人ひとりの意識づけを徹底し、地域の再構築とコミュニケーションづくりをすることが大事だ。
 しかし今、同じ地域でもみんな孤立し、コミュニティに入らない人が増えた。仲間を増やすためには、「あなたの力が必要だよ」という呼びかけが必要だ。一緒に会議するのではなく、ともに参画し、生産しなければいけない。
 一人ひとりの意欲を高揚し、「あれが悪い、これがイヤだ」という負の連鎖ではなく、「よかった、面白かった」という楽しい連鎖をつなげて、JAファン・農業好きを増やしていくことが重要だ。


【講演 2】

男女共同参画はビジネス的戦略だ
大金義昭
文芸アナリスト

大金義昭 文芸アナリスト 昭和27年、農林省は各県知事宛てに、婦人の農業協同組合活動への参加を推進するようにと通達を出した。半世紀も前に霞ヶ関から通達が出されていたのだが、現実はどうだろうか。地域が女性パワーや突進力を活かしているのに対し、JAはなかなか経営に取り入れられていない。女性管理職が増えてきてはいるものの、まだまだ男性優位だ。
 男女共同参画は平等とか夢やロマンではなく、協同組合ビジネスの「戦略」として重要・必要だ、という観点が足りていないのではないか。
 現在のような激変の時代では、基本的スタンスとして大事なのは「強い、賢い」よりも「変化への対応」だ。新しい方法論を導入するのはリスクが大きく波風も立つが、中途半端は時間の無駄。柔軟に本気で取り組むべきである。
 欧米で民間企業のリーダーに求められているのは、現場の意見を聞く、弱点を認識する、多文化主義の寛容などもあるが、女性的な価値感だ。
 まず、女性の方が男性よりも仕事に積極的。女性の方が、どんなことにも真面目に取り組むことが多い。また、女性のアイディアは男性よりも柔軟・寛容・実用的であり、女性目線の取り組みは経営面で必ずプラスになる。
 閉塞感のある時代だからこそ、女性的な知恵・感性でJAを活性化するべきだ。


【講演3】

出荷商品をすべて試食して順位づけ
石井信一
JAにじ営農部長

石井信一 JAにじ営農部長 JAにじの「耳納の里」販売額トップの人は年商2400万円。そのほか加工品中心に1000万円以上が6〜7人いるし、ブドウの旬2カ月だけで400万円売る人もいる。万が一「耳納の里」がなくなったら、彼らの生活もつぶれてしまう。だから「みんなの生活を守るため」だと、毎月必ず何かしらのイベントを開催するなどして、とにかく売る努力を徹底している。
 お客さんの口癖は「どれが一番おいしいですか」だ。それに対してスタッフは「これが一番!」と言えなければダメ。以前、旬な農産物が出てきたら全生産者のものを試食して、順位付けをして消費者に勧めていた。下位の生産者には悪いことをしたと思うが、しかしそれも仕方ないことで、むしろ来年がんばってくださいとお願いした。
 ほかにも、みんなでフラワーアレンジメントや料理を覚えて見せる努力をしたり、レストラン「夢キッチン」でも職員が毎日試食と議論をして今の味に辿りついた。直売所では12月から生産履歴をスキャンして、その場でどんな農薬をどれだけ使ったかがわかるシステムを導入し、消費者への情報公開を進める予定だ。
 直売所は品数と量が命といわれてきたが、その時代はすでに終わった。これからは、消費者と生産者の交流拠点になるのが役目だ。


【講演 4】

「こだわり」消費者に
満足を与えるために
緒方博修
JA地産地消全国協議会選任アドバイザー

緒方博修 JA地産地消全国協議会選任アドバイザー 全国的に農産物直売所がつぶれ始めている。
 一方で、ワタミや7&I、JR東日本などの大資本が農業に参入して自前で商品を揃えたり、ホームセンターが直売所を経営するようになった。こういう現状だからこそ、直売所は安売り合戦に参戦してはいけないし、むしろ地域のプライスリーダーとなるべきだ。
 消費者ニーズには消費型とこだわり型で分かれる。例えば、量販店で産地も確認せずに値段だけ見て安いものを買う人が、直売所に行けば少々割高でもきちんと選んで買っている。直売所はこういった「こだわり」の消費者に「満足」を提供することが必要だ。満足は商品の質だけで与えるのではない。あいさつをしない、商品説明ができないスタッフでは無理だ。
 今、農業に求められるマーケティングとは「売れる仕組みづくり」である。100万個売れるヒット商品をつくるより、100万人の顧客をつくり、永続的に事業と地域経済が成り立つ仕組みを作らなければならない。そのためにも、生産者は消費者に何を提供できるのか、消費者は生産者に何を求めているのか、明確な定義づけと情報公開が必要になる。直売所は女性の視点やアイディアも活用しながら、少量多品目の販売システムを構築するべきだ。

(2010.11.08)