◆「ねじれ国会」の厳しさ考慮
鹿野道彦農相は政府が23年度予算案を決定した12月24日夕の民主党農林水産部門会議で次のようにあいさつした。
「農業者戸別所補償制度については、当然、私自身も法案として提出したいと考えていたが、今日の政治状況を考え、確実に所得補償が交付されなければならないという判断に立ったときに、果たして法案として提出することがベストな選択なのか、いろいろと議論をしたなか私自身の責任で、23年度については予算措置として対処していきたいという判断をした。生活第一を掲げる民主党として、やはり国民生活最優先とした」。
参議院では野党が過半数を占めるという現在の「ねじれ国会」での審議の厳しさをふまえたものだ。
部門会議後の会見で筒井信隆副大臣は「今の国会状況では、法案が確実に成立する確信を持てる状況にない。法案を出したうえで、仮に成立せず来年度からの所得補償が実行できなくなるという事態は絶対に避けなければいけない。(所得補償は)必ず実行しなければならない問題。(予算措置であっても)法的にも十分やっていける」。
新法成立はめざさない方針だが、畑作物に対象を広げる戸別所得補償制度について「本格実施」との表現は変えないという。
◆所得補償の交付最優先
JAグループが昨年夏に決めた政策提案では、新政権の農政について戸別所得補償制度の位置づけも含め、農業経営の安定をはかるための政策全体像を体系的に示すべきだと主張した。そのなかで食糧法など関連法改正もすべきだとしていた。
とくに戸別所得補償制度は米、麦、大豆など自給率向上に資する品目について「国」が生産数量目標を決め、その達成に責任を持って推進するとの考えが基本だ。
一方、現行の食糧法(主要食糧の需給と価格安定に関する法律)は平成16年の改正で米の生産調整については、いわゆる「農業者・農業者団体が主役」のシステムに転換、行政の役割は大きく後退していた。
国主導できちん生産数量目標を達成するという戸別所得補償制度の「思想」を実践するのであればこの食糧法の規定を変えるべきだ、というのがJAグループなどの主張だった。しかし、農水省は今年の通常国会には新法案提出を見送ったために、食糧法など関連法改正案も提出しない。
これについて筒井副大臣は「完全にするためにはそれらの改正が必要だと思う。やや問題点が生じる部分があるが、しかし、完全に法律違反とまではいえない。やや問題があったとしても、万が一法案を出し成立せず来年度からの所得補償が実行できない(という)マイナスにくらべたら圧倒的に少ないと判断した」と述べた。
◆農業者団体との協力体制を明記
こうした経緯をふまえてか戸別所得補償制度の推進体制について農水省は次のように整理した。
(1)農業者戸別所得補償制度は食料自給率向上を図ることが大きな目的。国家戦略として取り組むことから戦略作物の生産振興、地域農業の振興については「行政が主体的に推進」。
(2)一方、米の需給調整については農業者・農業者団体の主体的な取り組みが不可欠であることから「これまでと同様の役割を農業者団体等が果たすことが必要」。
(3)こうした考え方により、農業者戸別所得補償制度の実施体制は「行政と農業者団体等が協力して推進する体制を構築」――。
今年度のモデル事業の推進体制の説明図では農協等の位置づけが記されていなかったが、23年度からの実施体制ではこれを明記した。
米の生産数量目標の設定については、JAなどで構成する「地域農業再生協議会」(地域水田農業推進協から移行)の意見を聞いて、農業者別の生産数量目標の設定ルールを策定し公表するなどの体制とするとした。
米の需給調整については結局、これまで同様、現行の食糧法の枠組みで農業者団体の主体的な取り組みが「不可欠」との考えだ。
ただし、農業者団体が主体となった計画生産(生産調整)への取り組みだけで「主要食糧の需給及び価格の安定」が図れるかどうか、これが改正食糧法の問題点としてJAグループが強調してきた点だ。