現場の実践から反論を
◆再燃するJA批判
報告案では農水省に対し「将来的に農協から信用・共済事業を分離する方針を決定すべきである」として23年度の方針決定と工程表策定を求める内容となっている。
信・共分離論はこれまでも政府の規制改革論議のなかでしばしば俎上に上ってきた。今回のWGの報告はおもに以下の点を指摘している。
(1)一般金融機関に他業禁止という制約があるなかで農協のみに信用事業を認めることはイコールフッティングの観点から適切ではない。
(2)信用事業と経済事業等を一体で行うことは圧力販売など不公正な取引を誘発する。指導や取締りで防ぐのは限界。
(3)営農事業の赤字を信・共事業で補てんすることは信・共事業のみを利用している准組合員が多く存在することをふまえると利用者保護の観点から適切でない。
(4)分離しても従来と同じような金融サービス提供を農協でない事業体として継続できる制度設計は可能。農業者にとってむしろ金融機関の選択肢の幅が増える可能性がある。
◆農協の総合性を否定
WGの検討事項には「准組合員の廃止」もあがっていたが、信・共分離論のなかに含めた。信・共分離をすれば農業者ではない准組合員問題は解決するとの認識だ。
農水省はWGに対して農山村地域では購買店舗や金融機関をはじめとして各種サービス機関が十分に存在しているとはいえないことから「組合員のニーズ」にそって総合的に事業を展開することは、営農と生活に必要なニーズを一元的に実現できるなどのメリットを挙げて反論してきた。かりに信・共分離をすれば組合員の利便性が低下するばかりか、組合員の負担増、農業収益の悪化につながるなどとして分離は「不適切」とも強調している。
WG報告については各地のJAトップ層から反論が噴出している。
たとえば、営農事業の赤字を信・共事業で補てんしていることを問題視するが、農山村地域にとっては地域農業振興こそ地域貢献でありそれを担っているのがJAであり、さらには「本来、農業振興は行政の役割のはず」との指摘がある。
一方、都市的地域にあっては農業振興に地域住民の理解は不可欠。議決権はないものの正組合員と同じ総代会資料等をもとに、准組合員の総会を開催し、トップ層がそこでの意見をJA運営に反映させる努力をしているJAもある。
また、准組合員が増えていることは加入者自身が「総合JAの有利性を判断してのことだ」と強調する意見もある。
◆政権公約違反では?
各地域では他の金融機関とJAは競争関係にあるのが実態。規制・制度改革の議論ではイコールフッティングを強調するが、「他社と同じ土俵で闘っている。そのうえで営農事業を展開し、地域づくりにも貢献しているのがJAだ」とあるJAトップは話す。地域住民のニーズに応える事業では高齢者福祉活動などが典型だろう。 もちろん地域のニーズに応えるJAの活動への理解促進は「新たな協同」の点からもJA自身にいっそう求められることだ。不当な議論には断固反論するのは当然だが、むしろ地域のニーズをしっかりくみ上げることが規制・制度改革議論への反論になるのではないか。
なにより指摘しておきたいのは、2009年総選挙の際の民主党政策集INDEX2009には「農協、漁協、土地改良区、森林組合等の活動に関しては、組合員の利便性等の観点から、事業の総合性・一体的運営を確保する」と盛り込まれていることだ。何を掲げて政権交代が実現したのか、これも改めて問うべきことである。