「無縁」社会から「夢縁」社会へ
「孤立」救うグループ活動に注目
今年創刊86年を迎えた『家の光』。開会のあいさつで江原正視・(社)家の光協会会長は、国連が一昨年の総会で2012年を「国際協同組合年」とすることを決議したことについて「市場原理主義への過度な偏重がもたらした世界的経済危機による失業、貧困、格差など諸問題解決への期待を込めたもの」とその意義を指摘。
そのうえで「『家の光』をはじめ、諸媒体を通じて創刊号の巻頭言『共同心の泉』に込められた協同の精神と農業・農村・JAの理解促進のために情報発信していき、JAの組織基盤と地域貢献活動を強化する教育文化活動への支援をさらに強めていく」と強調した。
◆危機感をバネに多様な活動
毎年大会の目玉となっている「記事活用」、と「普及・文化活動」の体験発表。今年も前日に行われた都道府県発表大会で選ばれた9人が地域での活動を発表した。(別掲)。
講評で審査委員長の村田武・愛媛大教授は「いずれも感動したが、その分、審査は大変苦労した」と、甲乙付けがたい発表が相次ぎ、審査が難航したことを報告、「TPPを叫ぶ菅首相や農業改革論者に聞かせたかった」と強調した。
「地域が本来もっていた『子育て力』が奪われていることや、高齢化による『孤立』が農業・農村の危機として表れている。その課題にどう取り組んでいくかが9人の発表に共通して表れていた」と村田委員長が総括したように、仲間だけの活動にとどめず、今の地域社会が抱えている課題解決の役割を担っているという発表が今年の大きな特徴だった。
◆“女性の読みもの”覆す報告
審査の結果、記事活用の部で農林水産大臣賞に輝いたのは広島県代表・中河美智子さん(JA三次)の「『無縁』を『夢縁』に 地域の絆が大事じゃけん」。
村田委員長は『家の光』や生活は女性のものだという考えを覆す画期的な発表だったとして「独居や高齢者問題について『共同心』を活かし、新しい生き方を模索する報告」と評価した。
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「お父さんらもなんかすりゃええのに―」。
そんな声が女性部のなかからあがったことがきっかけで、西部支店管内に4つの男性料理グループができた。 最初は乗り気じゃなかった男性陣も、回を重ねるごとにだんだん心待ちにするようになり、今では「男子厨房に入らず世代」が真剣に料理に取り組んでいる。その日は必ず『家の光』読書会も開く。今まで“女性のためのもの”と思われていたが「男性にも読んでもらえるようになった」。
参加者の中には奥さんに先立たれた人や奥さんの介護をしている人もいる。出かける機会が少なくなった人たちが、心を通わせ会食している姿をみることが「なによりうれしい」。
さらに男性の料理グループからは「女性部はええ活動しとる。お母さんも女性部に入ってみいや」との声もあがり、夫の勧めで女性部に入ってくる人もでてきた。
家の光の料理教室が夫婦共通の趣味となり、夫婦のコミュニケーションが深まることで「地域が明るくなってきた」。
中河さん自身も16年前、夫に先立たれた。しかし、女性部に入っていたおかげで多くの仲間にめぐりあった。「お金で買うことのできない豊かさを与えてくれた。そのきっかけが『家の光』でした。
無縁社会をなくし性別や世代を超えた仲間の輪で明るい夢ある地域づくりをめざしたい」。
唯一の男性発表者だった高知県代表・中村卓司さん(JAコスモス)からも男性の「孤立」問題に正面から取り組んでいる発表「地域活動の夜明けぜよ」があった。
中村さんは男性版・助け合い組織 「赤い褌隊」の隊員だ。高齢者宅の庭木の剪定や草刈り、料理教室など幅広い活動をしている。
『家の光』は料理教室の教科書であり、なくてはならない講師だ。「“女男”共同参画」の実現を望む中村さんは、助け合い活動はもちろん、自立した生活をめざしたいと力強く語った。
また、白熱した審査をうかがわせるように、今年は審査委員会特別賞も選ばれた。
県内初の女性理事に就任し、専業農家女性の地域農業振興役を務めていることが評価された和歌山県代表・玉置絹子さん(JA紀州中央)の「人生のバイブルは『家の光』〜農業を次世代へ繋げる架け橋〜」が受賞した。
◆“子育て力”を協同で発揮
普及・文化活動の部でJA全中会長賞を受賞したのは、佐賀県代表・白武敦子さん(JAさが)の「『家の光』を片手に 地域に輝くJAを目指そう」。 村田委員長は、「『ちゃぐりん』を利用した食育・子育てが、地域の再生に重要であることが伝わった」と評価。
白武さんは、JAの活動に関心を持ち、佐賀の農業を背負ってくれる子どもたちが育つことを願って、管内の小学校へ『ちゃぐりん』を配布、夏休みに「ちゃぐりんフェスタ」を開くなど次世代対策に取り組む。購読者を対象に結成した「ちゃぐりんキッズクラブ」も9年目を迎えた。農業体験を通して「上級生が下級生の面倒をみることで協力することの大切さを自然に学んでもらえている」。
一方、購読率の減少に歯止めをかけようと役職員と取り組んだ年間普及運動では、全支所で普及率40%以上という目標を達成した。
「人と人とのつながりが希薄になっている今だからこそ、協同することの大切さを『家の光』を活用して広げていきましょう」と呼びかけた。
「JAってかっこいい」
「ちゃぐりん」愛読者特別発表はJA紀の里管内在住の藤井嵯千さん(和歌山県・紀の川市立田中小学校3年)。子どもらしい素直な発表に、会場は温かい笑いと盛大な拍手で湧いた。
地域で“JA”という言葉や文字を目にすることが多く、興味をもって『ちゃぐりん』に紹介されていたJAの説明を読んでみた。モモを作っているおばあちゃんからも話を聞いて、さらにJAの役割を知った。「いろんなことをしているのでJAってすごい。大きくなったらJAの組合員になりたい。何を作るかはゆっくり考えようと思う。全国各地にあるJAはいつも農家の人の味方でかっこいいな。」
◆「家の光文化賞」は3JA
大会では毎年、教育文化活動の取り組みが創意工夫に富み、家の光事業がJAの事業・活動のなかで明確に位置づけられて成果をあげている「家の光文化賞」受賞JAの表彰式が行われている。
今年は▽JAいわて中央(藤尾東泉組合長)▽JA新ふくしま(吾妻雄二組合長)▽JAいわみ中央(本田誠次組合長)の3JAが受賞。賞状と正賞の床置時計、副賞賞金300万円とブラジル・コチア産業組合中央会記念賞、家の光文化賞農協懇話会から会員プレートが贈呈された。
昭和24年に制定された同賞の受賞は今回で258JAとなった。また「家の光文化賞促進賞」と「JA普及実績」表彰も行った。
大会は最後に申し合わせを満場の拍手で採択。明日からの教育文化活動に活かすことを誓い合った。
平成22年度「家の光文化賞促進賞」
▽JA北群渋川(群馬県)
▽JAセレサ川崎(神奈川県)
▽JA小松市(石川県)
▽JAあいち尾東(愛知県)
▽JA西三河(愛知県)
▽JA北河内(大阪府)
▽JAくにびき(島根県)
▽JAしまんと(高知県)
体験発表全国大会出場者(家の光協会会長特別賞、敬称略・発表順)
【記事活用の部】
▽八島紀嘉(JAみやぎ仙南・宮城県)
▽中河美智子(JA三次・広島県)
▽手島寿恵(JA鳥取中央・鳥取県)
▽新里光子(JAいわて中央・岩手県)
▽中村卓司(JAコスモス・高知県)
▽玉置絹子(JA紀州中央・和歌山県)
【普及・文化活動の部】
▽菅野房子(JA新ふくしま・福島県)
▽畠山典子(JAならけん・奈良県)
▽白武敦子(JAさが・佐賀県)