政治的対立を超えて環太平洋経済連携協定(TPP)とは何かを考える幅広い議論ができるようにとの趣旨で開催。関係省や経済同友会などが後援し、330人が参加した。
基調講演で京都大学の伊東光晴名誉教授は日韓競争についてウォン安円高を挙げ「その大差が競争に大きく響いている。決定的な競争条件になっているのは関税の差ではない。日本経済の根本問題は円が高過ぎることにある」と説いた。
また韓国、中国、インドが参加しないTPPの市場は、日米を除けばごく小さい。日本は成長著しい中印にもっと目を向けるべきだとした。
経過をたどれば、ウルグアイ・ラウンド後日本は農産物問題以外で経済協力を広げていく経済連携協定(EPA)を各国と結び始めたが、狙いは中国とインドだった。「せっかく、そうした戦略を取りながら今回そのハシゴを突然、首相が外してしまった」という見方も紹介した。
◆「内需主導からの転換を」 経団連
パネルディスカッションでは青山学院大学の岩田伸人教授が「関税のない自由貿易に向けたTPPはガット・WTОの理念を先取りしており、すばらしいものだが、日本としては農業者の戸別所得補償を“TPP対応型”に改めないと参加には賛成できない」と条件をつけた。
日本経団連の三村明夫副会長(新日本製鉄会長)は全面的な参加賛成で「日本は貿易立国だというが、GDPに占める輸出の割合は16%に過ぎない。これまでは内需主導でやってきたが、今後はそうはいかない」とし「今までの成長モデルを転換しなくてはいけない。海外市場を自ら取り入れていく政策が必要」と主張。
中韓両国が参加しないTPPにはメリットがないとの疑問に対しては、韓国が入ってくる可能性はあるし、中国についても話し合いの「アレンジはできる」とした。
◆「議論にはまだ生活実感なし」消費者
消費者の立場からは女優の星野知子さんが「参加に賛成したいけれど、頭の上で議論が飛び交っている感じで、まだTPPという言葉が自分の生活の中に入ってこない」と語った。
鳥取県の平井伸治知事も、現場の意見を十分に聞く必要があるとして態度を保留。参加するとすれば戸別所得補償などの見直しも必要だが、政府には思い切った対策をやる決意があるのかなどの疑問を呈した。
これらパネリストの発言に対してJA全中の茂木守会長は、世界の食料危機の中で、TPP参加によって日本は食料の9割近くを海外に依存することになり、日本農業は安全・安心な食料を供給できなくなるとして「食料安全保障や国家の形をよく議論すべきだ。参加は断じて容認できない」と強調。
また参加した場合、どうして食料自給率を向上させるのか、「食料・農業・農村基本計画」と両立できない矛盾なども力説した。
◆「強い農業」とTPPの両立は?
三村氏は「農業問題が国民的関心事として、これほど議論され始めたのは歴史上初めてではないか。(TPP問題の浮上は)結果的には大成功」という受け止め方も示した。
また成長戦略のエネルギーを第一次産業などの活用に求め、強い農業を実現させる経営の大規模化には、小さな農家が土地を差し出しやすいようにすべきだとの課題も挙げるなどしてTPPと強い農業の両立は可能だとした。
これに対して茂木氏は「両立は不可能」と反論。JAグループが最近『農業復権に向けた提言案』をまとめたことなどを報告し、農業を強くすることは、TPPの議論と関係なく進められるべきものとした。