◆県域全体を評価
調査するのは土壌中に累積した放射性セシウム。放射性ヨウ素は半減期が8日間と短く、米(穀類)、卵、肉などには蓄積の程度が少ないとして、厚労省が示した食品中の放射性物質に関する暫定基準値の対象とされていないことからも、対象としないことにした。
調査対象とするほ場の考え方は、福島第一原発からの距離。屋内退避が求められている半径30km圏の外側を対象にする。また、これまでの大気中放射性物質のモニタリング検査の結果で、一定の蓄積量を超えた場所も基準とする。
農地の汚染防止に関しては「農用地汚染防止法」があるが、同法では放射性物資を対象としていない。そのためこの調査の実施にあたっては法的な根拠がないため、県の調査に協力するかたちで行うことにした。
調査では水田表面から15?の土壌を採取、今回は150検体を予定しており2つの専門機関で分析する。
分析結果については、個々の地点のデータは公表せず、県全体の評価が得られるかたちで農水省から県に提示する予定。結果の公表については基本的に県、さらには政府全体の判断となるという。
◆作付の可否を判断
土壌分析の一方で農水省は土壌中の放射性セシウムがどの程度、玄米や精米といった農産物の可食部分に移行するのか、移行係数の検討も進める。内外の先行研究を精査していくという。ただし、これまでの研究では、同じ作物でも土壌の性質によって移行係数にかなりばらつきがあるといい、慎重に検討を進める。
農水省は当該県に対して土壌分析結果とともに、この移行係数も示す予定だ。土壌中からある値で放射性セシウムが検出された場合、その数値に移行係数をかけた値が農産物に移行する可能性のある数値となる。現行の食品中の放射線物質暫定基準値では、米(穀類)・野菜(根菜とイモ類は除く)などは、1kgあたり500ベクレル(Bq)とされている。
土壌検査の結果、この数値を超えるような状態が明らかになれば、作付の可否についての政策判断も問われることになる。農水省によれば、かりにそうした事態になった場合には省外の有識者も含めて判断することになるという。
◆すべては原発事故
今回の調査は田植え前に一定の結果を出したいとの意向から実施されるものだが、原発事故の今後によっては再検査の必要性も出てきかねない。さらに土壌検査の結果、例年どおりの米づくりができたとしても、農水省によると、今度は収穫後の米に対する検査も必要になる可能性もあるという。
また、米の移行係数を示した後には、野菜や果樹など他の作物の移行係数も先行研究などをもとに示していく予定だ。
いずれも不透明な点が多いが、それも「すべては原発事故」(農水省)が原因。生産現場の混乱と不安は計り知れない。