農政・農協ニュース

農政・農協ニュース

一覧に戻る

【JAは地域の生命線】 環境にこだわり、時代のニーズに応える JAグリーン近江(滋賀県)

 滋賀県の琵琶湖南岸から東の県境までを管内にもつJAグリーン近江。広大な近江盆地で伝統的に作られてきたコメと麦、大豆などの穀物と、三大和牛としても数えられる近江牛が有名だが、全国の環境保全型農業のトップランナーとして「環境こだわり米」の取り組みでも耳目を集めている。JAの今堀会長、三井理事長はじめ役員の方々に、環境こだわり農業や集落営農などの取り組みと、JAのこれからの方向性などを、JC総研所長・東大名誉教授の今村奈良臣氏をインタビュアーに聞いた。
 今村氏の提言とともに、JAグリーン近江の、次代の営農事業を見据えた新たな特産品開発の取り組みなどを紹介する。

竜王町弓削にある環境こだわりカントリー。火力を一切使わないで乾燥させる。

(写真)
竜王町弓削にある環境こだわりカントリー。火力を一切使わないで乾燥させる。

【環境こだわり米】

◆炭酸ガスを排出しない施設で

 

火力を使わないで乾燥させるDAG JAグリーン近江が「環境こだわり米」の取り組みを始めたのは10年前の平成13年。当時は135.6haと小規模でのスタートだったが、県の推進とも重なり年々作付けが増加。22年には水稲作付面積の3割以上を占める2700haとなり10年間で20倍に増大し、JA管内全9地区で合計25の部会や団体が取り組んだ。
 管内は東西に広く、平野部から中山間地までさまざまな地域・土壌特性がある。「環境こだわり米」は、それぞれの地域に適した品種を、適した栽培方法で、取り組んでいる。
 その拠点が、総事業費約10億円をかけ平成17年3月に稼動を始めた「環境こだわりカントリーエレベーター とれさランド」だ。全国的にも非常に珍しい、環境こだわり米に特化した施設で、処理能力はコメ3000トン、小麦756トンになる。
 大きな特徴は2つある。
 1つは、化石燃料を一切使っていないこと。
 一般的なカントリーエレベーター(CE)は火力による熱風で穀物を乾燥させるが、ここではヤンマー農機の独自技術である常温除湿乾燥システム(Dry Air Generator=DAG)を使い、空気を加温せず常温で空気中の水分を除去して乾燥させる。限りなく自然に近い形で乾燥させるためコメ本来の旨みを損なうことがなく、食味向上にも貢献している。
 施設建設を決める際、組合員から「せっかく環境にこだわって作ったコメなのに、それを商品化するカントリーが炭酸ガスを排出して環境を汚すようではダメだ」との意見があり、このシステムの導入が決まった。

(写真)
火力を使わないで乾燥させるDAG


◆効率やコストよりも「こだわり」を

 

 2つめの特徴は小型の乾燥貯蔵ビンを並べることで、小単位での管理を可能にした点だ。
 通常のCEは300tクラスの大きなサイロを備えるものだが、ここでは1つ50tと小型のものを66基持つ。1つの大きさを小さくしたことで、さまざまな品種や栽培方法に従って小口で集荷、乾燥、仕上げができる。つまり最大で66種類の製品にキメ細かく対応できるのである。
 当然、小口にすることでコストは格段に高くなる。しかし、「環境こだわり米」は農薬の記帳などさまざまな条件があるため、できるだけロットを少なくした方が管理しやすいという。「当然、効率は悪いし、いっぺんに大量に火を使って乾燥した方がコストは安くすむ。しかし効率やコストよりも、とにかく環境にこだわりたい」(大林茂松常務)という強い思いを形にした。
 小口で分けられるためトレーサビリティへの対応も万全だ。CE内では入庫から出荷まですべてを追えるシステムを完備し、消費者からの信頼性向上、リスクの軽減、有利販売・ブランド化に役立てている。現時点で正確に細かくトレースできるのは製品出荷履歴までだが、「やはり生産から消費までを一本でつなぎたい。最終的には消費者が、携帯とかインターネットとかでどこの誰がいつ肥料を入れて、どんな機械を使って作ったコメなのかがわかる仕組みをつくりたい」(岡本守常務)と、さらなるトレーサビリティの強化にも意欲的だ。
 他にも、大中の湖では特許も取得している「畦畔雑草の2回連続草刈り」、「額縁別収穫」、「色彩選別機利用技術」の3つを組み合わせた特殊技術で農薬を使わずにカメムシを防除する環境こだわりヒノヒカリの栽培や、琵琶湖と水田を魚道でつなぎ田んぼでフナが産卵・成育できるようにした「魚のゆりかご水田」など、さまざまな“環境こだわり”の取り組みを進めている。
 近年では「環境こだわり特産物」として、野菜や果樹でも環境にこだわった栽培を推進し、着実に生産を伸ばしている。


【特産振興】

◆野菜自給率40%・・・もっと伸ばせる!

 JAで今、力を入れているのは、野菜などの特産品と少量多品目の生産振興だ。
 昨今、主産のコメをはじめ、これまで生産に注力してきた黒大豆も価格が落ちてきて先行きが不安定な状態だ。さらに、これから益々高齢化が進めば、生産者にとっては省力で作れるものを、遠くまで買い物に行けなくなった高齢の消費者にとっては手軽に地元で揃えられるものを求めるニーズが高まるだろう。「将来の営農事業を考えたとき、米以外の多様な作物が必要だ」(岡本常務)との観点から、コメ、麦、大豆と複合での特産品開発を進めている。
 その方向性は、「あまり大きな販売目標や大型産地化をめざそうというのではなく、土地柄、風土柄を踏まえて、小さいものを少しずつ積み上げて行くやり方」(同)で、すでに高齢の農業者向けにナバナ、ミエンドウなどの生産振興は一定の成果をあげている。
 滋賀県はカロリーベースの食料自給率が50%で全国平均よりも高い一方、野菜の自給率は全国平均83%に対し、40%ほどと半分ほどの低さだ。「これだけ低いなら、逆に販売をもっと伸ばすことができる」(同)との考えで、将来的なファーマーズマーケットの出店も視野に入れた特産振興策として始まったのが、「1支店1企画の特産品づくり」と「特産TAC」の設置だ。

(続きは 【シリーズ JAは地域の生命線】 で)

(2011.05.13)