TPPについての記述があるのは「新しい農産物貿易ルールの確立に向けて」の節。現在のWTO(世界貿易機関)ドーハラウンド
交渉の行方が不透明ななか、世界的に経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)を締結する動きが広まっていることを紹介、日本も昨年11月に「包括的経済連携に関する基本方針」を閣議決定し、合わせて政府に「食と農林漁業の再生推進本部」を設置して、農業改革の基本方針を検討することになった経過を説明している。
そのうえで東日本大震災を受け、政府は5月17日に、TPP参加を6月に判断するとしていた当初方針を先送りすることを盛り込んだ「政策推進指針」を閣議決定したことも記述、「TPP協定交渉参加の判断時期については総合的に検討する」とされていることを説明した。
TPPについては、昨年の政府方針の決定時に農水省が試算を公表している。それによればゼロ関税になれば食料自給率は13%にまで低下し、農業生産額は4兆1000億円も減少し、関連産業を含めて340万人の雇用が失われることなどが示された。
経済産業省や内閣府なども経済連携協定による効果を試算しているが、このような試算などをもとにTPPをめぐって国民の間に議論が巻き起こったが、今回の白書では、この農林水産省試算は一切掲載されていない。
別の節では、世界的な食料価格が再び高騰し、トウモロコシは08年のピーク時を超え史上最高値を更新したことや、食料自給率を高めるべきとする国民世論は9割にのぼっていることなどの調査結果が報告されている。また、食料自給率を公表したり、目標設定をしているのは、日本以外にも韓国、スイス、中国、ロシアなどの国が行っていることも紹介している。
白書がわが国の食料・農業・農村の動向やそれぞれの政策展開について国民に発信し、国民それぞれが政策選択を考えるためのものだとすれば、なぜTPPによる影響試算を掲載しなかったのか、疑問だ。