訪問した安城(アンソン)市の古三農協の趙顯宣(ジョ・ヒュンソン)組合長からは開口一番、大震災へのお見舞いの言葉をいただいた。
「かつてない被害を受けた日本の方たちに心からお見舞い申し上げます。種をまく時期なのにそれができない気持ち、その心は表現できないほどだと思います。しかし、1年か2年たてばいい土に戻るのではないか、それを期待しています。日本のみなさん、元気を出してください」。
小職からは韓国農協中央会のチェ会長からお見舞いの言葉と義援金をいただいており小紙ほか農業関係紙が報じていることと合わせ、謝意を伝えた。
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前号でも紹介したように古三農協は組合員約1000人、職員25人の京畿道でいちばん小さな農協だ。だが、他の韓国農協のモデル的な事業を始めた農協である。
それが機械リースによって作業受託農家を育成する事業である。現在、22集落のすべてに作業受託をする農家リーダーが合計50人ほどいるという。
2000年から安城市と農協が協力して助成を始めた。スタート時は5000万ウォンのトラクター代の半額を支援。半額は自費だが、作業受託代が年間300万ウォンほどになるので約8年で返済できるという。この方式を韓国農協中央会が評価し今、全国に広めている。その後、古三農協は助成方式から農協が機械を購入して貸し出すレンタル事業に転換した。
高齢化が進むなかで何とか生産を維持しようという工夫は日本と同じ。リーダーは60歳代前半が多いが「皆、年を取ったなんて思っていない」と趙組合長は笑う。集落の高齢農家から作業委託があれば必ず引き受けなければならない仕組みにしており、500haの水田のうち7割は何らかの作業委託をしているという。
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「昼食にしましょう」と組合長に2階に案内された。なんとそこは食堂だった。
ご飯ににみそ汁(田舎みそだとか。ちょっと味は濃かった)に焼き魚と豊富な野菜をトレーにとる。
農協は高齢者への配食や福祉事業を行う「社会的企業」をつくっている。農作業体験や伝統食の教育も行う。食堂のおばちゃんはその企業の職員だという。
そのおばちゃんがデザートに懐かしいマクワウリを運んできてくれた。こうした果物やジャガイモや玉ネギなどは自家用がほとんどだがこれからは生産を増やして都会に売りたいという。趙組合長からは「大山農協」、「JAあづみ」といった日本のJAの話が出た。社会的企業にしろ、農産物販売にしろ日本のJAに刺激を受けたのだという。
「生産者と農協の結束力が大事。(組織を)大きくするのではなくて協同組合は小さいものが力を合わせてやるものです」。
作業受託で農地を守り生産を維持しているのもそのひとつだ。
とはいえ、後継者不足はやはり大きな課題。趙組合長の長男もソウルにいる。
「若い人が来てくれないと村に元気が出ない。農村に来てくれるような環境にするのが私たちの責任」と語り、そのために前号レポートで紹介した韓国の有機農業「親環境農業」を推進し「都市と農村を結びつけたい」と繰り返し強調した。
その弾みになると関係者が大きな期待を寄せているのが9月に韓国で開かれる第17回IFORM(国際有機農業運動連盟)世界大会だ。1972年にパリで設立されたこの団体には、小規模農家や有機農業団体などが参加し3年に1度世界大会を開いているが、アジア開催は初。李明博・大統領や国連の潘基文・事務総長も参加するという。「稲作中心のアジアの有機農業を世界に発信するいい機会にしたい」と趙組合長。
「もちろん取材に来るんでしょう?」
できれば、また「アンニョンハセヨー」と組合長室を訪ねたい。