農政・農協ニュース

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根強いTPP推進論 再開した再生会議で

 東日本大震災発生で中断していた「食と農林漁業再生実現会議」が6月10日に4回目の会合を開き議論を再開した。復旧・復興を優先させTPP参加は見送るべきだとの意見が出た一方、日本農業再生のためにもTPPを推進すべきだとの意見も相変わらず根強かった。同会議では政府の復興構想会議が6月下旬にも基本方向を示すことに合わせて、基本方針をとりまとめる予定にしている。

 菅総理は冒頭のあいさつで「単に元のかたに戻すのではなくて6次産業化、バイオマスなどにより、より農業を強くする方向で議論をしていただきたい」と強調、玄葉国家戦略担当大臣は「日本の再生が東日本の再生を支え、東日本の復興が日本再生の先駆的な例にしていくことが重要。農林漁業の再生戦略については、東日本の農林漁業の復興、日本の農林水産物の信認回復という新しい課題を抱えることになった。その方向で議論していただきたい」などと述べた。

◆「TPPは復興の足かせ」茂木JA全中会長

 歌手の加藤登紀子氏は「避難所暮らしをしている人たちのプランをよく考えなければいけない」と述べたほか、「原発の安全神話は瓦解した。その影響を過小評価してはならない。たとえば漁業は再開できるのか。獲ってきても食べていただけず無駄になってしまうのではないかということも考えなればならない。日本への信頼を回復するには原発を廃止していくべきで、政府はそのように舵を切るべきだ」などと話した。
 JA全中の茂木守会長はJAグループが5月に決めた提言をもとに発言。
 「TPPは復興の足かせになる。農業者はこのことで戦々恐々としている。一方で1120万人のTPP参加反対署名を集めた。助け合い、コミュニティといったことが大事だという認識が出てきたのではないか。日本人の価値観もこれで変わる」とTPP参加検討は直ちに止めるべきと強調した。
 また、震災と原発事故について「東電、政府は賠償に相当力を注いでほしい。農山漁村では人生設計を根底から覆されて相当ダメージを受けている人がいる。政府はここに思いを馳せるべき。この再生実現会議も農業者、漁業者の共感を得られるような指針を出してほしい」などと述べた。
 また、栃木県の女性農業士会会長の相良律子氏は「栃木県でも風評被害がひどい。日本一のイチゴ生産農家も15%も減収した。観光地にも閑古鳥が鳴いている。やはりTPPの話とは別なのではないか。一生懸命農業生産をしているが、ちゃんと食べてもらえるのだろうかという不安を抱えながらやっている人の気持ちを分かっていただけるのか。これを考えていただきたい。原発事故は終息していない」と強調した。


◆再生と改革、同時平行

 これらの意見に対してTPP推進が必要だという意見も相変わらず出された。
 新日鐵会長の三村明夫氏は「復興が大変なのは分かるが、復興を離れて日本全体の農林漁業改革を。世界も進んでおり日本はもっと前に出ていく必要がある。このまま停滞していては世界とのギャップはさらに拡大していく。日本再生のきっかけにしていくというのは大賛成で意欲ある農業者に農業を一生懸命やってもらうことが大事ではないか。
 TPPについては日米首脳会談で、できるだけ早い時期に、と総理は言った。復興というだけではなくこれをやってほしい」と述べたほか、早大教授の深川由起子氏も「TPPと復興が対立するのはよくない。日本再生の7原則が示されているがその方針にのっとってやっていただきたい。農業が特別だということはない。特別に税金を注ぎ込んでいいというものではないので、それを承知してやってもらわなければいけない」と話した。
 そのほか、ぶった農産社長の佛田利弘氏は「50年先のことを考えていかなければならないのではないか。先祖伝来の土地を追われるという人たちのことを考えないと新しい未来を示せない。日本農業の再生は人づくりに力を入れてほしい。それを国がバックアップするべき」などと述べた。
 また鹿野農相は、被災状況がさまざまで農業者らの要望も多様だと報告したうえで「次の時代に評価されるような農政をうち立てていきたい」と話した。
 玄葉大臣は「復旧・復興と食と農林漁業の再生は同時平行でやっていかなければならない。6月下旬には復興構想会議の議論もある程度まとまる。全体の政策指針はすでに決定している。急いで議論をしてほしい」と話した。次回以降の日程は決まっていない。

(2011.06.13)