農政・農協ニュース

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【緊急現地ルポ】まず現場を知ろう 農協協会全職員が福島の被災地へ

 (社)農協協会の全職員が6月11〜12日にかけて、東日本大震災および東電第1原発事故による放射能汚染の被災地である福島県を訪れ、現地の人たちと交流した。

JAそうまの鈴木組合長(左)や生産者から貴重な意見を聞く(写真)
JAそうまの鈴木組合長(左)や生産者から貴重な意見を聞く

 未曾有の東日本大震災と人類が未だ経験したことのない放射能汚染が発生して早くも3カ月が経った。
 政府をはじめ民間のシンクタンクから復旧・復興について、さまざまな意見が出されている。
 しかし「この人たちは、本当に地震・津波そして放射能汚染の現場へ来て、現場の現状やそこで暮らす人、暮らすことも農業をはじめとする仕事の場を奪われた人たちの気持ちを聞いて、提案しているとは思えない」という現場からの声を聞くことが多い。
 「農業協同組合新聞」を発行し、ホームページ「JAcom」を通じて多くの情報を発信する立場から、改めて現場の人たちの意見に耳を傾け、現実に何が起こり、いまどういうことになっているのか。そして、被災された人たちは何を考え、どうしたいと思っているのかを、できるかぎり「現場」に近づき、そしてそこで得たことを共有するために、全職員で福島を訪れた。
 また、この企画を知り同行を希望された、梶井功東京農工大名誉教授、森島賢立正大学名誉教授、田代洋一大妻女子大教授らも参加され、現地の人たちと意見交換された。


◆震災・原発事故の縮図ともいえるJAそうま

ここは海でも池でもない。400戸の住宅がたった2分30秒で流された。 福島では鈴木昭雄組合長をはじめJA東西しらかわの皆様のご協力を得て、まずJAそうまを訪れ、鈴木良重組合長、遠藤祐輔専務、そして生産者である佐藤昭夫さん、寺島英雄さん、島光春さんから、お話を伺った後、意見交換を行った。
 JAそうま管内は、津波で住まいと農地を失った人たち、原発から20km圏内であるため避難指示を出され他地域に避難している人たち、そして放射線の蓄積濃度が高いということで「計画的避難区域」に指定された飯館村、そのいずれにも該当しない人たちと、今回の東日本大震災と東電第1原発事故の縮図ともいえる地域で、鈴木組合長や生産者の方々から貴重なお話を聞くことができた。
 その後、津波被害が大きかった松川浦周辺とわずか2分30秒の間に400戸の集落が壊滅し280人の命が奪われた鹿島地区を訪れ、悲惨な状況を目の当たりにし文字通り「言葉を失った」。
 1日目の宿舎に向かう途中、すでに多くの村民が避難した飯館村を訪れたが、田植えの準備をしながら放置された田んぼには早くも雑草が繁りはじめており、作付けすることがかなわなかった生産者の無念さをひしひしと感じた。

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ここは海でも池でもない。400戸の住宅がたった2分30秒で流された。


◆放射線量を軽減するゼオライト

飯館村ではもうすぐすべてのライフラインが止まる 2日目の12日は、JA東西しらかわ管内の、放射線線量を軽減することがあるというゼオライトという鉱物を肥料として使っているほ場と、その肥料を製造販売している工場を訪問した。実際に線量計でほ場の外で計測した線量とほ場内で計測した値に大きな開きがあり驚かされた。
 JA東西しらかわの鈴木組合長は、「放射能対策として有効利用できる」のではないかと、これの普及に力を入れていく(同JAではすでに販売されている)。
 その後、再びバスで山を越え太平洋岸のいわき市で、大きな津波被害を受けた上に海の放射能汚染で漁が中止されている小名浜漁港と四倉漁港を訪れた。
 四倉漁港で「いくところがないから毎日、ここで海を見ている」と寂しそうに座っていた80歳になる漁師さんは、放射能汚染がなくなり「一日でも早く漁にでられるようにして欲しいね」と語った。
 余談だが、私たちが宿泊した旅館には、原発20km圏内のため家も農地もそのままに避難した広野町の方が300人余おられ、早朝からラジオ体操をし、旅館近辺の草取りをする姿が見られた。

(写真)
飯館村ではもうすぐすべてのライフラインが止まる


◆政府の提案・議論は現場無視だ

 今回参加した研究者の方々や当協会職員からは「現地に来なければわからない話をたくさん聞き、見たくないところもたくさん見せられ、テレビなどでは知ることのできない現実を知ることができた」、「復興できるのかと思いショックだった」、「被災地の現状を全国から見に来て、この現実からどう考えるか」を考えるべきでは、などの感想が聞かれるとともに、政府の東日本大震災復興構想会議などからだされる提案や議論が、いかに現地を無視したものであるかを痛感した。

◇   ◇

 なお、本紙では6月30日号で「地域と命と暮らしを守るために JAは地域の生命線〜協同の力で全力で被災地の復興を〜」をテーマに東日本大震災特集を企画しているが、そこで福島県にさらに追加取材するとともに、宮城県、岩手県を現地取材する。さらに被災地JAトップの座談会、西日本のJAグループトップによる座談会などを掲載する予定にしている。

(2011.06.14)