世界無形遺産とは、形にならない知恵や習慣といった社会的慣習や祭礼行事、芸能などを対象にユネスコが「無形文化遺産保護条約」に基づいて審査するもの。2009年9月から登録が開始され、現在世界の登録数は213件。日本もこれまで歌舞伎や雅楽などで計18件の登録がある。食の分野ではフランス、地中海の4カ国(スペイン、イタリア、ギリシャ、モロッコ)、メキシコの食文化が登録されている。
登録に向けた話し合いを行う検討会のメンバーは、静岡文化芸術大学学長の熊倉功夫氏を会長に、食品企業や学識経験者、料理研究家など12人で構成している。
今回主な論点となったのは▽登録する日本食文化の内容▽運動をどう盛り上げていくか、の2点。日本食文化の内容については、広義に捉えるか狭義に捉えるかが議論のポイントとなった。
味の素(株)代表取締役の山口範雄氏は、審査に通る内容であるとともに、日本国民が賛同し世界中に伝えていける観点も兼ね備えた考え方が必要だとして「一般家庭で普段食べている料理から洗練された頂点の日本料理までを関連付けて考える必要がある」と述べたほか、「うまみ成分」、懐石料理、包丁式など、日本ならではの食文化が挙げられた。
また、本来傷みやすい食材を傷まないように工夫した「寿司」の文化など、近年海外でも関心の高い日本の食文化を正しく世界に伝えたいという意見もあった。
運動の進め方については「申請以前に日本人が自国のすばらしい食文化に気づき、誇りを持つことが前提」(佐竹力総氏)など、日本の食文化の伝統を国民全体に浸透させ盛り上げていくことが重要との意見が多かった。
◆震災・風評被害のダメージ回復も期待
世界無形遺産への登録は日本食の価値の回復・向上を図るだけでなく、震災と風評被害でダメージを受けた日本の食や農林水産物の信認回復にもつなげたいとしている。検討会に出席した田名部匡代農林水産大臣政務官は「登録に向けた取り組みが食関連のみなさんの活性化につながって地域の観光や発展につながれば。オールジャパンで検討し世界に認められることで日本食を通じて日本全体を元気にしていきたい」と期待を述べた。
今後は来年3月の申請に向けて3回の検討会を重ね、第4回目となる10月の検討会で内容を取りまとめる予定。最短となる2年後の登録をめざす。
◎検討会メンバー(敬称略)
▽会長:熊倉功夫(静岡文化芸術大学学長)
▽鵜飼良平(上野やぶそば、(社)日本麺類業団体連合会会長)
▽小泉武夫(東京農業大学名誉教授)
▽佐竹力総((株)美濃吉代表取締役、(社)日本フードサービス協会会長)
▽辻芳樹(辻調理師専門学校校長)
▽服部幸應(服部学園理事長)
▽藤野雅彦(江戸割烹米村店主、(社)日本料理文化振興協会理事長)
▽増田徳兵衛(日本酒造組合中央会海外戦略委員会委員長)
▽村田吉弘(京都菊乃井、日本料理アカデミー理事長)
▽茂木友三郎(キッコーマン(株)取締役名誉会長)
▽山縣正(かきがら町都寿司)
▽山口範雄(味の素(株)代表取締役会長)
▽アドバイザー:宮田繁幸(東京文化財研究所無形文化遺産部長)