自ら行動して消費者に訴える
JAの役職員・組合員の力で信頼の確立を
◆この難局にいかに打ち勝つか
3月11日宮城沖を震源としたマグニチュード9.0の巨大地震は、激しい大地の揺れと巨大な津波を引き起こし、東北や関東沿岸の港町と農地を破壊するなどして多くの人命を奪い、その生活基盤までを失わせるにいたった。
これに追い打ちをかけたのが東京電力の福島第1原子力発電所の事故である。巨大津波により原子炉をコントロールする電源がすべて停止、原子炉や使用済み核燃料の貯蔵プールの冷却が不能となった。この結果12日から15日にかけて原子炉建屋が水素爆発を起こし大量の放射性物質が大気中に放出された。
安全だと言い続けられてきた原子力発電所が、コントロール出来ずにメルトダウンを起こしてレベル7の危機的状況に陥ったのだ。水素爆発で飛び散った核種は風下となった東海や関東、東北など広範な地域にフォールアウト(降下)して長期間にわたり多くの人々や動植物等に影響を与えることになり、さらに水や土壌を汚染した。
3月17日、政府は食品衛生法に基づき「暫定規制値」を設け、さらに19日に茨城県産ホウレン草から暫定規制値を超えたヨウ素131が検出された。21日には原子力災害対策特別措置法に基づく暫定規制値を超えた野菜類の「出荷制限と摂取制限」が指示され、福島、茨城、群馬、栃木そして千葉の5県で暫定規制値を超えた野菜類が次々と公表されると、これをきっかけに放射能汚染のない野菜類までが流通段階で引取拒否や返品、さらに買い叩きに遭うなど風評被害が一気にひろがった。
福島原発事故はいまなお終息しておらず、機械施設はむき出しの状態であり、汚染された街並みや農地、水さらに山林は今後数十年の歳月を要さなければ2011年3月11日以前の環境にもどらない。いま私たちは放射能被害と風評被害から逃げることが出来ない状態にあるが、むしろ逃げるのではなくこの難局に際していかに打ち勝つか、直接消費者に安全性を訴えるための行動を起こさなくてはならない。そのためにJAと組合員は何をすべきかここに提言したい。
◆閉そく感からの脱却
4月下旬切羽詰まった状況のなか「風評被害を吹き飛ばせ!」と東京交通会館前で野菜の安全性を訴えるべく福島と茨城県のJAや行政のとった行動が記憶に新しい。
1999年の所沢ホウレン草のダイオキシンや東海村JCOの臨界事故などの報道を見るといずれもその直後に風評被害が発生し、多くの組合員が販売先から受託拒否や返品に遭うなどして、その憂き目をみている。
情報過多社会ではショービジネス化するニュース報道が風評被害を助長しているのではないか、”報道に迷わされている”、果たしてこのまま組合員やJAは押し黙ったままでよいのか、それで消費者に組合員の気持ちが伝わるのか、そんな切羽詰まった状況から福島県と茨城県の仲間達は”現状打破のために”消費者に訴える行動を起こしたのだと考える。
特産野菜を持参して組合長が先頭に立ち放射能線量計を野菜にかざして消費者に安全性を訴える姿は、多くの消費者に理解されたのではないかと思った。また、この行動は多くのマスメディアで取り上げられ、野菜類に対する放射能の疑念が少しづつ解かれたのではないかと考える。
風評被害は、放射能という「見えない恐怖心」によって生みだされた“野菜は大丈夫だろうか”、という消費者の疑念にある。その意味で当初政府から発表された暫定規制値などは曖昧な情報として映ったのではないか、またマスメディアも断片的な情報を報道して疑念を増幅させた責任がある。リスクコミュニケーションとして暫定規制値以下の野菜や、出荷や摂取制限が解除された野菜など詳細な情報を国民に知らせるのもマスメディアの役割だと科学ルポライターの松永和紀氏は述べている。
マスメディアの報道のあり方も、彼らにとって情報とは「悪い情報は稼げる」であり「良い情報は稼げない」など報道の姿勢について松永氏は厳しく指摘しているが、まさにその通りだと思う。風評被害を打破するには妙手はないと考える。 放射性物質の検査数値など科学的なデータも揃えることは必要だが、最も有効な方法は「自らが行動し消費者に訴える」ことだと思う。この行動をマスメディアが国民に伝え、その取組みを多くのJAがリレーションすることで、さらに多くの国民が知り疑念が払拭されるのではないかと考える。誰かが何とかするとか、してくれるとかではなくJA役職員が先頭に立って行動しなければ風は起こらないのである。