会見で萬歳会長は最大の課題は原発被害への対応を含めた東日本大震災対応で「食と農を持って国を守るという決意のもと一丸となって復旧・復興に取り組む」と決意を示した。 またTPP(環太平洋連携協定)については「ゼロ関税と農業振興は両立しないとの信念を貫く」と強調、農業だけでなく国民生活に大きく影響する問題だとして今後も幅広い反対運動を展開していく考えを示した。
戸別所得補償制度については、「生産費と販売価格の差額を直接支払いすることはある程度評価できる」としながらも財源や法律化されていないことを懸念するとともに「(制度の)細かい点については要求していかなければならない」と述べた。
また、米の先物取引については「JAグループの総意のもとで反対してきた」と強調し、本上場阻止に向けて、行政不服審査なども視野に「慎重に検討していきたい」などと話した。
(写真)左から冨士専務、萬歳新会長
【冒頭の所信表明(概要)】
わが国、JAグループが直面する最大の課題は、原発被害への対応を含めて東日本大震災からの復旧・復興対策だ。被災地はわが国有数の食料基地であり、農業の将来像を早期に検討できるようJAグループはこれまでも政府等に積極的な働きかけをおこなってきた。 また自らも相互扶助の精神のもと、義援金や募金、役職員によるボランティア支援、あるいは事業面での営農支援、生活支援などのグループをあげて取り組みを進めてきた。
これら取り組みの成果もあって甚大な被害を受けた地域や農業において少しずつではあるが復旧が進められている。しかし、おびただしい量のがれき、泥などが多くの農地を覆っていて、未だ復興に向けた取り組みは極めて限定的。加えて原発事故の終息のめどは立っておらず、被害は遠く離れた地域まで拡大し残念ながら被害は深刻化していると受け止めざるを得ない状況だ。
このようななかでわれわれJAグループが消費者のみなさんから課せられている最大の役割は安心、安全な食を安定的に供給すること。食と農をもって国を守る、という強い意志のもとでJAグループ一丸となって震災からの復旧・復興に取り組んでいきたい。
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TPP参加議論も直面する課題だ。
もとより国は領土、国民、主権があって存在するもの。TPPに参加すれば食料自給率が13%に下がる試算がある。これでは大切な国民の食料が十分にまかなえず安全保障の面からも大きな問題だといわざるを得ない。
食料自給率向上を明記した基本計画にも逆行する。TPPのゼロ関税と農業振興は両立できないとの信念を貫いていく。
さらにTPPは労働環境の激変、医療崩壊、地域経済への打撃と社会全体に大きな影響を与え国のありようまで変えてしまうおそれがある。TPPは単に農業者だけの問題ではなく、広く国民全体に関わる重要課題であるということを多くの方々に理解をいただくということが大切だ。
これまでに1120万人もの方々から反対署名をいただいている。引き続きしっかりと広報活動をしていきたい。
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日本農業の復権も非常に重要な課題だ。5月にまとめた「東日本大震災の教訓をふまえた農業復権に向けたJAグループの提言に基づきわが国がめざす持続的発展が可能な農業の実現に向けて精一杯努力する決意だ。
その際、真に強い農業とは何か、をしっかりと見極める必要がある。わが国の国土は70%が中山間地で農地の集約化やコスト軽減にいかに努力したとしても生産条件がまったく異なる米国や豪州と同じような農業をめざすことは現実的ではない。 それぞれの集落や農地の実態に応じて物的人的資源を最大限活用する農業の姿を描くことが大切だ。それがわが国における強い農業のかたちだと考えている。
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世界は今までのような経済至上主義から互いに助け合う共生の時代に入ってきたと感じる。
わが国においても震災後の一時的な食料不足や原発事故の被害が拡大するなかで、持続可能な農業や食の安全安心の重要性が再認識されるとともに、助け合いや人と人のつながり、絆を大切にする価値観への転換が進んでいる。
その根底にあるのは、自主・自立・参加・民主的運営・公正・連帯等の精神であって、われわれ協同組合運動にほかならないと考えている。来年は国際協同組合年。これを契機に改めて協同の理念のすばらしさを国内外に発信し協同組合の存在を強くアピールしていく。
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私は「一歩前進」を座右の銘としている。小さくとも着実に歩みを進めたいという気持ちを表している。この言葉を胸にJAの組合員、役職員が一致団結のもとに消費者、地域に愛され信頼されるJAを作り上げる職務に精進をしたい。