◆我慢も限界、怒りは頂点
主催者を代表して庄條徳一JA福島五連会長があいさつ。
「これまで幾度となく経営の継続、再建と生活維持のため国の万全の対策と東電による損害賠償の早急な支払いを要望、要求してきたが、一向に実現をみないまま、事故は終息の兆しすらなく影響は軽減するどころか、農産物への放射能汚染問題が拡大し、事態はむしろ深刻さを増した。県内の農林漁業者の失望と怒りは頂点に達している」。
「被害者である農林漁業者がなぜ頭を垂れ、廃業の危機にあり、将来を悲観して自らの命を絶たなければならないのか。まったく理不尽。東北人は我慢強いといわれているが、もう我慢も限界。改めて東電に渾身の力を込めて抗議する」。
会長がこのように話すたびに会場から「そうだ」の声と賛同の拍手が起きた。
(写真)庄條徳一JA福島五連会長
◆協同の力で必ず復興
庄條会長は、国と東電に対して、原発事故の一刻も早い終息と損害賠償金全額の早急な支払いを強く要求するとともに、「われわれの望みは生まれ育った故郷に帰り青空のもとで農業にいそしみ、安全安心な農林水産物を自信を持って食べていただけるよう、福島の豊穣な大地と澄んだ海を一刻も早く取り戻すこと」と強調し、効果的な除染対策、米など農林水産物のモニタリング検査と牛の全頭検査を国が責任を持って取り組むことも求め、あいさつの最後をこう結んだ。
「福島県に心を寄せる多くの国民のみなさんから心暖まる支援をいただいた。これを力に福島の農林漁業者は決して希望を失わず、がんばろう福島、まけないぞ福島を合い言葉にこの難局に協同の力で立ち向かい、必ずや本県の農林水産業の復興を遂げ、福島ブランドの信頼を回復することを固く決意する」。
◆国の責任、当然のこと
来賓としてあいさつした佐藤雄平知事はこれまで政府が明快な対策を打ち出さないことを批判。佐藤憲保県議会議長は「国は本当に福島の窮状を受け止めているのか」と強調し、山口信也喜多方市長は「涙をこらえてがんばっている姿を全国民に訴えていかなければならない。県民には粘り強さと勇気がある。長い闘いになるかもしれないが絆を強めて連携を」などと呼びかけた。
JA全中の萬歳章会長は「東電は責任を逃れることはできない。国の対策は国家の責務。全国の仲間で応援している。JAグループも総力を挙げて支援する」などと話した。
県選出の国会議員もあいさつしたが会場からは厳しい声が飛んだ。 民主党の渡部恒三衆院議員が「責任は政府にある」と述べると「当たり前だ」と怒りの野次。また、「われわれは新しい内閣をつくります」と述べた際には、会場に嘲笑が広がった。
「福島で農業をやりたいだけなんです」―。Tシャツにこんなメッセージを書いていた参加も。営農と生活の自由を奪われたことへの怒りと、福島の農林漁業の未来を取り戻せるのか、その不安が交錯する現場からの声を伝えていた。
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【参加団体代表者による決意表明】
◎生産農家代表
鈴木廣直さん(JAグループ福島肉牛振興協議会会長・みちのく安達肉牛振興協議会長)
福島牛飼育農家を代表し以下のことを訴える。
▽原発事故の一切の責任は東電と国にあり、早急に国が責任を持って損害賠償すること▽生産者の生産意欲をそぐことのないよう早急に全額支払いを▽全頭買い上げを国の責任のもと速やかに実施すること▽出荷制限では全頭検査体制を速やかに構築すること▽生産者から消費者までの市場流通の安全、肉牛の消費宣伝を講じること▽牧草、稲わらの管理体制を徹底すること。
◎青年農業者代表
遠藤友彦さん(JA福島県青年連盟委員長)
政府は原発事故終息に向けた第一段階が終了したと発表したが、放射性物質による農作物への被害は落ち着くどころかますます広がっている。福島県、日本の農畜産物に対する消費者への不信感はますます増大してしまったことにぶつけようのない怒りでいっぱいだ。まるで農業者が加害者であるかのような扱いで、これまで食の安全安心のために取り組んできたことが一瞬で水の泡になってしまった。
自分たちの土地で農業を行いたいという当たり前のことをただ望んでいる。廃業に追い込まれ自殺者まで出したなかでTPP参加にかかる議論をいまだしていることが信じられない。即刻TPP参加中止を宣言し、自給率向上への国民的な合意を構築していく努力をすべきだ。
◎森林組合代表
菅野孝さん(田村森林組合加工課長)
福島の子どもたちにも未来がある。子どもたちの未来を今預かる責任ある大人たちにそれを奪う権利はない。これまで福島の子どもたちの未来のために森作りをして福島の自然を守ってきた。その森が放射能により汚染され、破壊されようとしている。原発事故以来、森の中に立ち入ることができず仕事ができない日々が続いている。
東電と政府の説明は不明瞭な点が多く不安でならない。放射能は本当に安全なのか。暫定基準値の「暫定」はいつとれるのか。この問題が発生してから“後出しじゃんけん”のようなことを政府はやっている。国の責任として最大限の努力を言葉よりも行動で示してほしい。
◎漁業者代表
叶谷守久さん(相馬双葉漁業協同組合副組合長)
津波で多くの被害を受けた漁業者のなかには助かった漁業者もいる。もし原発事故がなければ復興の第一歩を踏み出していた。
これまで国や東電の安全という言葉を信じて原子力と共存し漁業を営んできたが、今となってはあの言葉は何だったのか裏切られた思いだ。
漁業再開の見通しは全く立たないが、今後、放射線量が減少し再開できたとしても消費者に福島の魚を食べてもらえるのか、漁業で生活していけるのか、漁業者は将来の展望を持てない現状にあり、大きな不安を感じている。
福島の漁業をもう一度よみがえらせ、豊かな福島の海を子どもや孫たちに受け継いでいくために一丸となって立ち向かっていく。
【決議】
3月11日に発生した東日本大震災から5カ月が経過し、被災した隣接県においては、復興への槌音が響くなか、本県では東京電力福島第1原子力発電所事故により、多くの県民が故郷を追われ、日々目に見えぬ放射能への不安を募らせており、未だ復興への歩みを踏み出せない現況にある。
本県の農林漁業者は原発事故発生以来、出荷や作付制限、操業自粛、風評被害等により甚大な経済的損失を被り、経営継続の見通しが立たないばかりか、日々の生活すらおぼつかない深刻な状況に苦しんでいるが、事態は収束するどころか、放射性物質による農畜産物等の汚染問題が全国に拡大するなど深刻化の一途をたどっている。
事故発生から既に5カ月が経過するにもかかわらず、東京電力による損害賠償金の支払いも、国による十分な補償対策も遅々として進んでいないことに、県内の農林漁業者の不安と怒りは頂点に達しており、東京電力と国には、改めて原発事故の一刻も早い収束と、原発事故に起因する全ての損害賠償金を早急に全額支払うことを強く要求する。加えて、これ以上の被害の拡大防止と食の安全に対する不安を払拭するため、国の責務として検査体制の強化等の万全な対策を講じるべきである。
本県の農林漁業者は、これまでわが国の食料基地の一翼を担い、安全・安心な農畜産物や林産物及び海産物の供給に懸命な努力を重ねてきた。我々の最大の望みは、これまでと同様に消費者に自信をもって県産の農林水産物を供給し、喜んで食べてもらえるよう、3月11日以前の福島の豊かで清浄な大地と海を取り戻すことであり、そのことなしに本県農林水産業の復興はあり得ない。そのため、国と東京電力には、放射性物質の除染対策の道筋を早急に明示し、一刻も早く大規模かつ効果的な除染事業に着手するよう強く要望するものである。
本県の農林漁業者は、これまでに多くの国民からいただいた数々の支援を力に、この未曾有の難局にも決して希望を失わず、県内の全ての農林漁業者の協同の取組みにより、本県農林水産業を必ずや復興させ、誇りと希望をもって、次世代に引き継ぐため総力を挙げて取り組むものである。
(写真)大会後のデモ行進
※庄條徳一会長の「徳」の字は正式には旧字体です。