果樹・野菜・畜産――
多彩な生産をいかに持続させるか?
◆「米以外」を旗印に農業振興
JAみなみ信州管内の特徴を表す言葉に「りんごの南限、お茶の北限」がある。
この気候条件を生かし、リンゴのほか、モモ、ナシの3種すべてが栽培、出荷されている全国有数の産地である。お茶は生産量は少ないものの標高1000メートル近くでも栽培され、高地のお茶はタンニンが少なく甘みがあると評判だという。
そのほかブランド品として定着した「市田柿」の産地でもあり畜産も盛ん、と多彩な産物を生み出している。
「りんごの南限、お茶の北限」と、いわば寒流と暖流が交わるような地域とはいっても、それは農家が実際に作り続けたからこそ、結果として実証されたことである。
矢澤輝海組合長は「見てのとおりこの地域には広い農地がありません。そこに苦労があったのでしょうが、逆に米以外に何を作ればいいのか考えた結果、いろいろ品目が増えたのだと思います」と話す。同じ伊那地方でも上伊那は有数の米産地だが、対照的に下伊那は「米以外」を旗印に農業を展開してきたといえる。
矢澤組合長自身も自分の代から養豚経営を始め、これを軸に一家で野菜や米を作ってきた。養豚は種豚150頭の一貫経営。今は息子さんが専業農家として継承している。
当然のことながら、こうした農家の創意工夫の積み重ねによる地域農業をいかに持続し発展させるかが、JAの課題となる。
◆選果場改革と販売戦略
そのための取り組みのひとつとして、8月に稼働したのが松川町の北部果実選果場だ。北部地域の4つの選果場を集約し、糖度センサーを導入した。モモ、ナシ、リンゴすべてを扱うことができる。合わせて7500トンを出荷する計画だ。
選果場統合準備室長でもある田中一盛・松川支所長は糖度センサーの導入によって「大きさ、形だけでなく内容(味)を保証できる選果場になった」と話す。また集約化によって選果場での労働力を600人から150人に削減するなど固定費削減も実現できるという。
さらに統合を機に、集出荷機能だけの選果場から脱皮し、販売センター機能も発揮することをめざす。具体的には市場の先にある量販店など小売り段階まで見通して商品提案するような取り組みだ。 たとえば、化粧箱に優良品を4つ箱詰めした贈答品用に商品化する。こうした商品化のために仲卸業者がこの選果場に足を運び産地と消費地で情報交換するといったイメージだ。
一部ではすでにその戦略が実現している。それがモモ、ナシ、リンゴ共通の高級品ブランドとして評価の高い全国市場向けの「太鼓判」、特定市場向けの「大満足」である。基準は糖度13度以上。大きさは1ケース12玉から25玉までに区分する。 新しい選果場によってコスト削減と同時に利益をいかに産地と生産者に還元するか、その販売戦略を考えることが課題となった。選果場の統合は「生産者にとっては自分たちの出城がなくなるようなもの。どう組合員を新たな体制に引きつけていくか」(田中支所長)が問われるなか、糖度センサーによる「内容保証」をてこに新たな組織販売構築への取り組みを進めている。
(写真)
上:標高1000mの「下栗の郷」
下:7月に竣工したばかりの北部果実選果場。モモの出荷最盛期を迎えていた。九州への販売が3割を占めるという
(続きは シリーズ・JAは地域の生命線 JAみなみ信州(長野県) で)