農政・農協ニュース

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女性のアイディアで新事業・学習活動を  第11回JA人づくり研究会

 8月19日に東京・大手町のJAビルで開催された第11回JA人づくり研究会「女性の力で地域に風を!」では、4人の女性JA役職員をパネラーに迎え、4時間にわたり会場も交えての白熱したディスカッションを行った。討論の概要と今村奈良臣・研究会代表(JC総研研究所長)の総論を紹介する。

パネラーの4人(手前から)佐野さん、高橋さん、池田さん、中村さん

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パネラーの4人(手前から)佐野さん、高橋さん、池田さん、中村さん

(パネルディスカッションの出席者)
【進行】
和泉真理(JC総研 客員研究員)
【パネラー】
佐野房(青森・JA八戸監事)
高橋テツ(岩手・JAいわて花巻理事)
池田陽子(長野・JAあづみあんしん副委員長)
中村都子(高知・JAコスモス福祉生活部)

◆女性参画は数値目標よりも具体的テーマで

 全国のJA、連合会などから50人以上が参加したこの討論会で、まずテーマとなったのはJA経営への女性参画だ。女性総代10%以上、理事2人以上など女性登用の数値目標への厳しい意見が出た。
中村都子さん 女性部だけでなく男性の組織づくりも主導してきた中村さんは「数をクリアするのが目標になってしまいがちだが、問題は数ではない。女性は何をしたくて理事になるのか、JAは女性に何をしてもらいたくて総代に選ぶのか、まずはそういう具体的な活動目標を考えるべきではないか」と提言した。
 生き活き塾や「くらしの助け合いネットワークあんしん」などの教育活動や福祉事業に取り組んできた池田さんは「実際の農業従事者は女性が60数%と過半数を超えているのに発言力が弱い。女性理事や総代数の目標が出るだけではダメだと感じる」と指摘。男女隔てない地域全体の教育をめざして平成11年から始めた「生き活き塾」の中から、理事として活発に発言できる女性やそれを支える男性など、地道な教育活動で地域リーダーが育ち女性の発言力が高まった実例などを紹介した。
池田陽子さん 旧JA田子町専務理事で長年ニンニクの産地づくりに貢献してきた佐野さんは、女性役員を増やすことに対してJAトップらの腰が重いと批判した。
 JAの女性役員を増やそうと提言した際、「女性役員を出すには女性枠が絶対必要、枠を設けないと女性は積極的に出てこない、など女性を馬鹿にしたような発言が平然と出てくる」という。年内に女性枠を設けるための規約改正を議題とする臨時総代会が開かれる予定だが、「各地域から女性役員を推薦するよう申し合わせをすればいいだけの話で、コストをかけて総代会を開く必要はない。必ずしも女性枠を設ける必要はないし、むしろ地域から自然と女性が出てくる条件づくりが大切だ」と述べた。

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上:中村都子さん
下:池田陽子さん

◆JAが切り捨てた事業を量販店が活用

和泉真理さん JA経営への女性参画にはいまだに大きな壁があるとの指摘がある一方、「過去20年ほどのJA事業を見てみると、新しいアイディアは直売、福祉などほとんどが女性のアイディアによるものだ」と、和泉さんが問題提起した。
 ただ、これにも課題はある。
  JAで女性部を中心とした直売事業の立ち上げに尽力した高橋さんは「JAは経済事業改革の名の下に生活事業を切り捨ててきたが、今では大手量販店が会員を募って宅配とかグループ活動とかで業績を伸ばしている」との現状を報告。佐野さんも「JA合併後Aコープはすべて潰れたが、八戸市内のスーパーが配達料280円で遠くまで配達するようになった。なんでも注文できて親しみやすい農協ストアの雰囲気をつくっている」として、「しっかりお節介焼きをしていれば組合員離れなど起きるはずもない」と述べた。
高橋テツさん 高橋さんは「農協が築いてきた土台を量販店が利用しているのを見ると本当に悔しい。まだまだ生活、直売、福祉介護でできることはいっぱいある」と力を込めた。その一例として、助け合い活動や運搬業務などを手伝ってくれた人に地域通貨を発行し、直売所を積極的に利用してもらうなどのアイディアを出した。
 中村さんは、「JAはマンパワーを含む有形無形の力を活かしきれていない。何をするか、よりも前に、自分のJAやJAグループ全体の強みを再発見すべきだ。JAグループの一番の強みは農業、食料に携わっているということ。JAは本当にたくさん素晴らしいことをやっていることを知らなければ、具体的な活動目標も人づくりも進まない」と、JAグループと自JAの活動や位置づけを改めて見直すことの大切さを述べた。
 これには会場からJA横浜の波多野優常務理事が、「(JA横浜は)都市農協なので生活指導はあまり必要とされないし、員外利用の問題もあって福祉事業には消極的だ」と自JAの特徴を述べ、各JAは自らの地域特性と強みをよく理解してそこに必要な職員像を考えるべきだろうと賛同した。

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上:和泉真理さん
下:高橋テツさん

◆成功体験が得られる仕組みづくりを考えて

会場の参加者らとも活発な意見交換を行った。 これらの問題点を受けて、JAの人づくり、女性リーダーづくりをどう考えるか。
 そのために大事なことは「成功体験」や「学習活動」だとの意見が出された。
 成功体験について述べたのは高橋さん。14年前、直売所「母ちゃんハウスだぁすこ」の初代店長に就任し、以来現在までに5人の店長に引き継いできたがそれぞれの店長はその重責や周りからの期待に応えようと積極的に取り組んだにも拘わらず、生産者、消費者、スタッフ等の課題は大きく初心の意気込みが報いられないことも多く落ち込む例もあった。
 一方、JA産地間交流での出店や各種イベントへの参加も多くなる中で、販売や店づくりを得意とするスタッフの登用で売り上げを大きく伸ばし、イベント成功につながった例もあった。成功したスタッフは仕事に対する充実感と大きな自信を持ち、その後の事業運営にも積極的にかかわるという。「喜びを感じれば、人は育つ」と述べ、適材適所の重要さを語った。
 JA福岡市の清水秀喜常務理事は「(JAトップとして)職員に常に成功体験を与えていくための取り組みが大事だ」とこれに賛成し、同JAで職員のモチベーション向上と成果の実感のため「私の3カ年計画」を立てさせ、具体的な目標づくりを進めていることを紹介した。


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会場の参加者らとも活発な意見交換を行った。

◆組合員・職員がともに学ぶ場づくりが大事

佐野房さん 成功体験や充実感を得るためには、消費者との絆づくりや消費者教育も欠かせないとの意見が出た。
 佐野さんは、部会活動を通じた「人づくり、土づくり、産地づくり」の3づくり運動を30年前から続けている。週に1回、部会員と職員が一緒になって何が売れるか、どうすれば売れるかを徹底的に話し合い、学びあって人と産地をつくってきた。「地元の消費者が認めてくれないものは絶対に売れない。そのためには、生産者であり消費者でもある女性が中心になっての人づくり、産地づくりが大事。私もそういった活動の中で育ってきた。JAトップは女性の潜在能力を活用し、消費者教育に目を向けてほしい」と要望した。
 池田さんも組合員と職員一体の学習活動を実践してきたひとりだ。「協同組合の主役は組合員。組合員のための教育活動が何よりも大事だ」としながら、「組合員の思いや運動を実現し事業化するため、職員は組合員とともに学び価値観を共有し意識の醸成をすることが大切だ。その喜びや苦しみの中から小さな協同活動を生み続けることが発展につながる」と提言した。
 学習活動の進め方として「予算ありきではなく、まず企画ありき。予算は女性部からあがってきた活動内容を吟味してから配分する。厳しいやり方だが、これを徹底しないと組合員、職員が考えなくなる」と中村さんが述べると、他の出演者や参加者からも賛同の声があがった。
 また、人づくりのためのJAトップへの要望として、「職員がいつでも相談できるような時間をつくるべき」「JAの将来像を具体的に示すべき」「金融共済など目に見える成果以外の活動も確実に事業に繋がっていくと理解してほしい」などの意見が出された。

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佐野房さん

【今村奈良臣代表の総括】
今村奈良臣代表
 JAは金融共済要因でますます大規模合併が進んでいる。金融共済が中心になれば徹底したトップダウン路線にならざるを得ない。しかし、営農企画、販売、福祉介護などはボトムアップ路線でないとうまくいかない。トップダウンか、ボトムアップかは執行部いかんで決まるので、1人や数人の力、女性の力だけではどうにもならないということがわかってきた。
 今後の研究会のテーマとして、大規模合併JAと小さなJAとの路線の違いを考えるのも面白いのではないか。何にせよ、JAの女性理事数などの申し合わせや大会決議と実態との違いを考える必要があるだろう。
 こういった客観条件を踏まえて「JAは地域の生命線」だということを忘れてはいけない。この信念がなければ、JAは単なる協同銀行、協同保険になってしまう。その基本として企画力、情報力、技術力、管理力、組織力という5つの要素を総合的に持った人材が大事になる。
 もう1つ大事なのは、本来の農協らしいヒト、モノ、地域のネットワークづくりをどうつくるかということ。広島県で女性が中心となって活動している世羅高原6次産業ネットワークの取り組みなどを参考に、もっと広い視野から農協をどうするかを勉強してもらいたい。

(2011.09.01)