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学会員以外も多くの人が集まった記念シンポジウム。
◆1兆1000億円 除草剤の経済的価値
一般の消費者は「農薬」に対して危険・毒などのイメージを持っている。
政府が昨年行った「身近にある化学物質に関する世論調査」では、化学物質のイメージを「危ない」と答えた人が7割ほどあり、「便利」2割弱をはるかに上回った。また、安全に不安がある化学物質では「農薬・殺虫剤・防虫剤」が62.8%とトップで、「工場の排ガスや排水」より10ポイント以上も多かった。
農薬へのネガティブなイメージが先行する中、一般消費者へいかにして農薬の有用性をPRするかは生産現場の一つの課題だろう。
日本植物調節剤研究協会の横山昌雄常務理事は、経済価値の視点から農薬の有用性を述べた。
かつての除草剤を使わない水稲栽培では除草作業が10aあたり50.6時間かかっていたが、除草剤を使うことで1.35時間にまで短縮された。1時間あたりの人件費を農林水産統計より1452円と算出し、水稲作付面積160万haで換算すると実に作業費用は日本全国で1兆1755億円となるが、除草剤を使用すれば人件費31億円、除草剤コスト550億円で合計581億円と、1兆1000億円以上のコスト削減となる。「さらに今では、自動草取りロボットとも言える超省力散布のジャンボ剤が開発され、売り上げを伸ばしている。今後さらに除草剤の経済的価値は高まる」とした。
また、東名高速道では車の安全走行のため100mあたり200万円をかけて雑草防除をしていること、道路脇の除草によりゴミの不法投棄が減ることなどを述べ、「日常生活でも除草によってさまざまな効果が生まれる」と紹介した。
筑波大学の松本宏教授は、農薬に含まれる化学物質の一日摂取許容量(ADI)など安全性の化学的裏付けと、「自然食品を食べることで、人口毒物の1万倍の強度の自然毒物を摂取している」としたフルース・エイムズ博士の言葉を引用し、「一般的なコース料理の中に、いったいどれだけの天然毒素が入っているか」を詳細に述べ、リスク管理が徹底されている農薬の安全性を強調した。
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秋に収穫した畑で翌春に群落を形成したヒメムカシヨモギ(茨城県)(『ちょっと知りたい雑草学』(日本雑草学会編)より)
◆雑草を利用する
水田周辺にはどれほどの植物が存在しているのか。
農研機構の嶺田拓也氏によると、北海道から沖縄までで杉などの樹木も含めると2075種になる。「その中で水稲にとって害となる“雑草”は非常に少なく、ほとんどがただの草」であり、さらには絶滅危惧種に指定されている植物も40種ほどある。従来の除草はただ雑草(と見なされていたもの)を取り除くことに主眼を置いてきたが、これからは強害雑草も含めて、「たくさん生えている雑草は防除し、絶滅しそうな雑草は保全するよう管理していく」というのが、生産現場に対して生物多様性や環境保全の視点から課せられた新たなテーマになるだろう。
「管理」の一環として「利用」するのも有効な手段だ。
筑波大学の小林勝一郎教授は「雑草には高い環境適応性がある」として、その多面的機能について報告。土壌の保全や修復などに利用されるほか、湖岸に雑草を植えて水質が浄化した例、塩分濃度の強い土壌に雑草を植えて作物を植えられるように改善した例などを紹介した。
NPO法人緑地雑草科学研究所の伊藤操子氏は「人間と雑草は長い間共存してきた」として、食用としても利用されてきた雑草があることを紹介。「雑草自体が悪いのではなく、その状態や質が悪いだけ。非選択性除草剤ですべて取り除くより、利用できるように残していくやり方が必要だ」と提言した。
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岡山県に位置する児島湖につくった渚護岸。フトイ(左)ヒメガマ(右)ヨシ(奥)を利用している。(『ちょっと知りたい雑草学』(日本雑草学会編)より)
日本の防除体系は世界に誇れる
佐合隆一会長(茨城大学農学部教授)
学会の発足は、農業の主労働である草取りからの解放と労働生産性の向上をめざしたもので、いわば農業からの要求だった。50年経ち、日本の水田雑草防除は世界に誇れる体系を構築したが、一方で、雑草を生かそうと雑草に害のないような管理技術も積み上げてきた。つまり、従来は農作物への害をいかに楽して少なくするかという研究が主だったが、今では水田とその周辺環境を含めた管理の研究へと視点は移っている。これからは、雑草の完全防除とともに雑草と共生するための研究とのバランスが重要となるだろう。