◆「自覚的」組織への育成などが課題
冒頭に山内偉生代表委員は「協同組合懇話会は、先輩同志と会員各位の真摯な活動によって創立以来30年を超える歴史を積み重ねてきた。来年は国連が決議・宣言した国際協同組合年を迎えるにあたり、協同組合の在り方、将来展望を考える重大な転機に立っている。東日本大震災で甚大な被害を受けた地域で、農林漁業協同組合、生活協同組合、協同組織金融・共済関係機関が地域住民に最も信頼され、公益的社会サービスの役割発揮が期待された」と述べた。さらに、国際協同組合年全国実行委員会で検討中の「協同組合憲章草案(検討委員会・聖学院大学富沢賢治教授座長)に盛り込まれている基本的考え方を踏まえて、[1]協同組合の新しい公共、社会的サービス分野における公益的活動、[2]協同組合の組合員相互間、役職員と組合員との絆を強化する「小さな協同」という新しい協同、[3]協同組合運動への情熱を有する自覚的組合員と自覚的役職員の人材育成教育、の3点を重要課題として提起した。
討議では、5人のパネラーがそれぞれの組織の現状を説明し、問題点と今後の展開への課題について意見を述べた。
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シンポジウムのようす
◆世界情勢のなかで役割発揮を
JC総研理事長の土屋博氏は「大震災でJAグループが組織的に連携し助け合いの活動を行い、組合員、地域住民の生活を支えた。行政の公共を補う新しい公共の分野を担った」と述べ、「特に住民の生活支援、医療・介護の社会的貢献が顕著であった。JAとして今後は、組合員対策とともに地域社会への貢献という公益的活動が期待されている」と指摘。
同懇話会の常務委員の岡本好廣氏は「リーマンショック以来の世界不況下で、協同組合の役割が注目されている。世界的な食料事情の悪化に備えて食料確保、経済社会安定のための金融対策、さらに環境保全対策など協同組合の果たす役割は重要だ」と述べた。
同じく常務委員の田中久義氏は、IMFの協同組合金融機関の分析報告を引用し、世界も日本も地域社会の変化に対応した新世代協同組合の時代を迎えたとして、生産部会の法人化など多様な組合員の動きに応じ、相互性強化の協同組合金融の在り方を考えたいと述べた。
全国信用金庫協会出身で常務委員の斉藤登氏は「店舗数の減少など問題はあるが、預金残高は伸長しており、地域密着型の協同組織金融機関として民主的運営が評価されている。預貸率53.2%と低い現状を克服し、中小企業や商店の振興を図り地域社会へ貢献したい」と論じた。
JF全漁連の長屋信博常務理事は最後に東日本大震災における東北地域の漁業、漁港、養殖施設の甚大な被害の現状と災害の復興・再建の取り組みを報告。特に共同利用漁船舶の建造が急務として具体的な対応策を明らかにし、論議になっている株式会社などの漁業権取得を企む「特区」の設定は、伝統的なわが国の漁業の在り方を根底から覆すもので絶対に反対であると強い意志を表明した。
◆次世代の協同組合の仕組みを
パネラーの現状報告と課題提起に対して、▽自治会やNPOで取り組んでいる高齢者の見守り活動と協同組合の社会サービスの課題の共通性、▽国連で決議した貧困や飢餓、都市と農村の格差、雇用の創造などに対する日本の協同組合としての具体的対応、▽米の先物取引市場問題、▽食料危機や金融危機に向けて相互扶助組織の協同組合が果たす大きな役割、▽地震・津波で消失した東北地方海岸林の再生に向けての取り組み対策報告など、会場の参加者から熱意ある多くの意見があがった。
閉会にあたり、代表委員代行の中原純一氏は「協同組合の今後の展望を切り拓くための多くの課題が提起されたが、残された問題も多い。このシンポジウムは、2回、3回と継続していきたい。原発事故の風評被害の影響もあり、課題を収斂して生産現場からの代表や都市の消費者代表なども含めたシンポを計画し、次世代の協同組合の仕組みを考えたい」と総括した。