農政・農協ニュース

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東日本大震災からの復旧・振興における農協の戦略的役割を論議

 東京農業大学総合研究所農協研究部会・GIS研究部会は、11月11日に"東日本大震災と農業・地域経済社会の復旧・振興における農協の戦略的役割に関するシンポジウム"を、同大学世田谷キャンパスで開催した。

◆農業者は従来の形での復興が希望

 

 第1報告は、白石正彦名誉教授(東京農業大学)が、被災者に寄り添いながら農業・地域経済社会の実態を検討し、その復旧・復興における国、自治体の先導的かつ戦略的役割はきわめて大きいが、同時に、協同組合セクターの一翼を担う農協の組合員とコミュニティの人びとを結びつけた内発的な戦略的役割が極めて大きいとの論点を明示した。
 第2報告は、渋谷往男准教授(東京農業大学)が福島県相馬市の39戸の水稲農家の実態調査を踏まえて、農業者は従来型の農業形態の復興を希望しており、企業参入、大規模施設園芸などこれまでと異なる新たな農業形態は内発的には生まれにくいこと、現段階では津波による農地の損壊の復旧に加え、農業機械損壊による営農意欲の減退を抑止する助成対策の緊急性を明らかにした。
 第3報告は、猪俣優樹取締役(農業生産法人会津みずほ農場)が衛星画像とGISを活用した会津米情報開示システムによって、食品放射能測定モニターで、玄米および精米を全ロット検査、土壌や水などの農地の環境データも測定し、震災後の原発事故による風評被害を極力抑止するメカニズムを明らかにした。
 さらに、鈴木充夫教授(東京農業大学)が、従来は衛星画像の価格が高く、時間分解能力が低くコメの成長プロセスをリアルタイムで監視できないこと、衛星画像を活用するためのデジタル地図(GISデータ)が整備されていなかった段階にあったが、現段階では1ha当たり1000円から1500円で営農情報コンテンツをJA、農業法人、営農者、コメ卸業等を対象にWEB配信するビジネスモデルづくりが可能となった点を明らかにした。


◆地域参加型事業の実践が大事

 第4報告は、鈴木昭雄組合長(東西しらかわ農協)が、JAによるJA建物更生共済支払実績(10月末)が51.2億円、JA所有建物・設備損壊額10.4億円、原発事故による農産物被害額2.9億円(9月末・対象:野菜、畜産)、香港への輸出米の出荷停止(平成22年産米)、地震による水田用水路(パイプライン)の損壊により700haが不耕作地として発生し、生産額換算で約8億円の減収、組合員(生産者)は地震による施設や圃場損壊で経営に不安を抱え、さらに原発事故により放射能物質による被害と風評被害の二重被害と、JAが従来進めてきたブランド戦略、安全・安心の生産環境レベルアップや販売事業等が「無」に帰した深刻な影響を明らかにした。
 これに対して、JAが行った支援事業は、JA施設や組合員住宅施設、農地や農業施設の損壊調査と対策、大学教授等を招いて放射線物質と農畜産物に関する研究会の開催や放射線量を測定するための測定器の購入(科学的根拠による証明)、JAオリジナルブランド「みりょく満点」の柱になっている地元産物の鉱物資源をはじめゼオライトと放射性物質の関係についての独自の取り組み、農産物風評被害払拭キャンペーンの実施(関東圏で50回ほど開催、継続中)、原発事故による損害賠償申請受付窓口を地域に開いて開設している等の実施状況を明らかにした。
 JA事業の最大の目的は、組合員の所得安定、農家の文化的な生活の向上、農業者のプライドの確立の3つを達成して地域再生が可能であるが、現段階は原発事故で放射能汚染対策、風評被害対策などマイナスからの再出発であること、今後の地域再生への戦略としては販売戦略の革新、コスト削減による事業効率性の向上、多様多彩な状況変化に太刀打ちできる人づくり、農協の総合力を生かした地域参加型事業の実践が重要である点を強調した。


◆宮城県の取り組みは農家ニーズとズレ

 コメンテーターの松岡公明常務理事(JC総研)は、被災地等も視野に多様なブランド米の貯蔵が可能なカントリー・エレベーターの整備と結びつけた衛星画像とGISシステムでないと農業所得の向上に結びつきにくい点などを指摘し、梶井功名誉教授(東京農工大学)は、大震災からの復旧・復興への自治体の取り組みとして岩手県方式は内発型(なりわいの再生)として評価できるが、宮城県方式は画一的でトップダウン型であり被災現場での農家の営農継続ニーズとのズレが大きく問題であること等を指摘し、活発な討論を行った。

(白石正彦・東京農業大学名誉教授)

(2011.12.01)