高齢者の栄養を改善することで社会保障費負担の軽減につなげる、というテーマは議長の東京大学大学院教授・佐々木敏氏が提示した。
会合では財務省が高齢化の影響による財政面での現状を報告。増加する社会保障費を抑制していくためにも、高齢者の健康増進に取り組んでいくことは意義があるとした。
また、農水省は栄養問題を解消するためには食料確保が基本にあるとの観点で食料安全保障課が食料をとりまく情勢を説明。日本の食料自給率の低さや世界的な穀物価格の上昇など、現在の世界情勢を背景に不測時の食料安全保障を考えていく必要性を指摘するなど、広い分野から「高齢者の栄養」を考えた。
◆社会的「負担」を「人材」に
そのなかで、アジア人口・開発協会常務理事・事務局長の楠本修氏からは、悲観的な議論にされがちな高齢化問題をポジティブにとらえた報告があった。
楠本氏は人口問題を多産多死から少産少死への移行過程を指す「人口転換」の視点で考えている。日本は戦後の急速な人口転換によって若い労働人口が増える「人口ボーナス期」と経済成長を同時に経験。それによって奇跡的な経済発展を成し遂げたが、この短期的な人口転換が、急激な高齢化に直面した理由であると説明した。
アジアは今後、日本を筆頭に高齢人口が増加していくが、その一方で人口ボーナス期に入ることもデータで示し、経済的に支える人口がいる中で高齢人口が増加することは、成長が期待できる新たな分野になるとして、栄養の改善で健康な高齢化の推進が実現できれば高齢者を社会的な「負担」ではなく社会貢献できる「人材」ととらえることができると主張した。
また、日本が経験した経済成長を移転するかたちで人口転換が進んでいった東アジア諸国では今後、日本と同様に高齢化を迎えることになるため、日本が実りある高齢社会を実現させることがアジア諸国での責任にもなると述べた。
(写真)「アジアにおける高齢化の規模とその問題」について報告する楠本氏