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JAのあり方や震災対応について活発な意見交換が行われた
◆「未知の不安」を「既知の安心」へ
今村代表は基調講演で「一般的に風評被害は、何かわからないものを恐れるという、いわば“無知の不安”から生じる。しかし今回の福島の場合は、多くの日本人がそれぞれ情報収集し勉強し、ある程度知識を持った上で、なお危ないのではないかと疑問を持って忌避している、いわば“未知の不安”から生じている」と指摘した。その上で「“未知の不安”を“既知の安心”に変える」ための取り組みとして、「JAや産地が放射性物質に関する正確なデータを公表し、消費者の心をつかむことが大事だ」と提言した。
JA富里市では「見えない放射性物質を、いかに“見える化”するかが課題」(仲野常務)だと、最新の検査機器を導入した。
しかしこれについては、検査して規制値以下であることを証明しても、逆にほんのわずかでも検出されてしまえば取引先から敬遠される、などJA内部から反対意見があり、また一部量販店からも「自主検査するなら取り引きを中止したい」との申し出があり、組合員、JA、流通の間の意識の違いを埋めるのは大変だったという。
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今村奈良臣・JA人づくり研究会代表
◆徹底した検査と情報公開が大事
直売所「みずほの村市場」を運営する農業法人みずほの高橋広樹生産研究部長は、「一番強いのは消費者同士の口コミ」だとして、徹底した検査と情報公開で消費者を味方につけることが大事だと述べた。同社は3月から11月まで農林水産物624品の検査をしたが、市では同じ期間にわずか185品しか検査していないことを指摘し、「行政に任せていてはダメ。自主的に取り組まなければ」と訴えた。
パルシステムは、政府が定める規制値に対して約5分の1という厳しい自主規制値を定め、積極的に検査データを公表している。今後、さらに10分の1へと引き下げることも検討しているが、これは「甘い基準は生産者のためにも消費者のためにもならない。むしろ生産者が加害者になってしまう可能性もある」(山本理事長)との考えからだ。情報公開の姿勢には賛同の声があった一方で、「大手の生協が厳しい数値を定めると逆に風評被害を助長するのではないか」「数値をただ伝えるだけでなく、その意味も同時に伝える必要がある」などの意見が出た。
今村代表は放射性物質による汚染で営農ができなくなった地域の農業者を受け入れた千葉県柏市の染谷農場を紹介し、「国内に優良農地はまだいっぱいある。このような受け入れ体制の整備を、農水省もJAもなぜ提言しないのか。JAトップは風評被害などと言っていてはダメだ」として、JA同士で新しいネットワークを構築し、風評被害に負けず、若い人たちがたくさん入ってくるような仕組みを作るべきだと訴えた。
【発表】
新しい地域づくりのカタチをJAが示す 菅野孝志・JA新ふくしま専務理事 JA新ふくしまは「地域のど真ん中のJAを目指して」をJA運動のスローガンとしてしてきた。震災、原発事故、風評被害などがあったこの9カ月は、これまでの運動が本物だったのか、その成果を知るためにあったと感じている。
今、新しい地域づくりが求められている。これからは地域の農事組合法人を一単位として、そこに地域住民にも参加してもらい、地域全体で農業を守っていくような仕組みづくりが必要だ。
計画的避難地域で花き栽培していた農家が、営農を続けるため外に農地を求めた結果、規模拡大と販売高をアップさせた事例があった。新たな農業のカタチの構築に向けて一つの光を与えることができたのではないか、と感じている。徐染作業などには出てこられないが営農は続けたいという高齢者もおり、そういう人を若い人とともにコーディネートするのがJAの役割だろう。これができなければJAの存在意義はない。
正確で信頼できる情報発信を
山本伸司・パルシステム生協連合会理事長
放射能汚染への対応は食と農を守る長期戦になる。パルシステムは福島の農林水産物を積極的に売っているとして、放射能を拡散させているという批判を受けたが、このようにただ不安を煽るだけのマスコミ、粗雑な政府のリスクコミュニケーションに対して、正確で信頼できる情報を発信していく必要がある。
今後の復興支援で大事なのは地域事業の活性化だ。単にお金を投入するだけでは地域づくり、仕事興し、地域再生にはならない。起業支援などを推進すべきだ。例えば震災前からパルシステムと取り引きをしていた65の被災したメーカー・団体に対して、もし復旧するなら必ず取り引きします、と約束することで銀行の与信を得られたと感謝の声があった。
今後は他団体ともネットワークを結び、首都圏の人たちの自主的で継続的な支援を呼びかけていきたい。マスコミが取り扱わなくなっても、10年、20年と復興するまで続けていきたい。
経営トップの判断が大事
仲野隆三・JA富里市(千葉)常務理事
風評被害の最大の要因は、マスコミや評論家による無責任な報道だ。そのせいで多くの国民が冷静さを失い、差別意識を醸し出し、風評被害を拡大させてきた。当JAは直販が多いため全国の産地や流通の情報が入ってくるが、西日本では東日本産の農産物が総じて半値以下で取り引きされているという。絆とか、ともにがんばろうとか言う一方で、このような差別が起こっている現状をよく知ってほしい。
放射性物質の検査については、安全の証明はほしいが検査待ちで時間がかかる、検出されたら困る、料金が高い、といった組合員の悩みと、取引先を失うかもしれない、検出された時誰が責任を取るのか、といったJAの悩みとで争点に違いがあった。セシウムの半減期が30年あることを考えると、今後も長くこの問題と付き合っていかなければならない。これからもJA経営トップの判断とさらなるリーダーシップが求められる。
風評被害対策は消費者目線で
川又啓蔵・ラジオリポーター
震災によってJAに対する評価がよく見えた。普段から余所のSSより高くても、組合員だから、何かあったときに頼りになるから、と期待してJS-SSを利用してきたのに他所より復旧が遅いのはどういうことだ、との批判があった一方で、流出したり予約したが使用できなかった生産資材を補償するなど商系では考えられない対応が非常に喜ばれた例もあった。系統事業について改めて考え直す機会になったのではないだろうか。
風評被害への対策は、一歩間違えると、消費者不在になってしまう。今、土日の都心は復興キャラバンだらけで、消費者にはすでに飽きられている。ただ歩いているだけで何も買わなくても、試食や配布でお腹もバッグもいっぱいになる。本当に意味があるのだろうか。ラジオの取材を通して、風評被害を作っているのは流通や市場ではないかと感じることがあった。もっと末端の消費者に届くようなアピールが必要だ。
農業は産業になっていない
長谷川久夫・農業法人みずほ(茨城)代表取締役社長
これだけの甚大な被害が起きた中で、農業界として改善策、国民へのメッセージが発せられなかったのが非常に残念だ。なぜ出来なかったかと言えば、それは農業が産業として成り立っていないからだ。[1]生産現場が販売価格の決定権を持つ、[2]ルールある競争、[3]社会的主張と責任を負い雇用の場を作る、という3つの条件を満たし、農業者一人ひとりが経営者にならなければいけない。みずほの村市場は農業者が再生産を行える価格で販売することを目的に設立した直売所だ。消費者に対して自己主張をする一方、社会的責任も負っているから、放射能に対する考え方も自ずと決まってくる。
農産物は食料ではなく食材だと考えるべきだ。人間は他の動物と違って道具とエネルギーを使って、食材を食料に変える。農産物を材料と考えることで、暫定規制値に対する考え方は変わるだろうし、新たな視点で消費者に訴えることができるようになるだろう。