◆農地の「出し手」に協力金
「基本方針」で掲げた7つの戦略のうち「戦略1:持続可能な力強い農業の実現」には▽戸別所得補償経営安定推進事業、▽新規就農総合支援事業、▽ほ場の大区画化・汎用化の推進などの予算を位置づけた。
戸別所得補償経営安定化推進事業は「平地で20〜30ha、中山間地域で10〜20ha規模の経営体が5年後(28年度)に8割程度を占める農業構造」をめざすためのもので、▽地域農業マスタープランの策定、▽農地集積協力金が柱。
地域農業マスタープラン作成事業は、市町村等が集落レベルでの話し合いに基づいて、地域の中心的な経営体とそこへの農地の集積、中心的経営体以外の農業者を含めた地域農業の生産品目や6次産業化対策などのプランを作成することを支援するもの(約7億円)。マスタープランの検討会メンバーのおおむね3割以上を女性とすることが条件だ。
農地利用集積協力金は集落で中心となる経営体に農地を集積するため、「出し手」に対して交付する交付金。協力する農業者が農業機械を処分する場合、▽0.5ha以下:1戸あたり30万円、▽0.5ha超2.0ha以下:同50万円、▽2ha超:同70万円を基準として市町村にまとめて交付する。具体的な単価は市町村で決めるが、農地利用集積円滑化団体などに対して“白紙委任”するかたちで農地を貸し出すことが条件。総額は65億円。
◆平成20年度就農も対象?新規就農支援
農水省によると40歳未満の就農者は1万3000人(平成22年)で、このうち定着するのは1万人程度だという。これを毎年2万人定着させることを目標に実施するのが新規就農総合支援事業である。
このうち新規就農者確保事業は▽就農前の研修期間(2年以内)と▽就農直後(5年以)の所得を確保する給付金を給付する。
研修期間に対する支援は、原則として45歳未満で就農する青年が県農業大学校などの農業経営者育成教育機関や、先進農家や農業法人で研修を受ける場合、年間150万円を最長2年間給付する。ただし、研修終了後1年以内に独立・自営の経営を開始しなかったり法人へ就農をしなかった場合、また給付期間の1.5倍以上就農を継続しない場合は全額返還しなければならない。
就農後は年間150万円を最長5年間給付する。市町村の地域農業マスタープランに位置づけられていることが条件。独立しない親元就農は対象にならないが、親元就農から5年以内の経営継承や親の経営から独立した部門経営を行う場合は対象となる。
また、特例として平成20年4月以降に就農し、就農時45歳未満の農業者も地域農業マスタープランに位置づけられていれば対象となる。
ただし、市町村が適切な就農をしていないと判断した場合は打ち切りとなるほか、年間所得が250万円以上ある場合は給付対象にならない。総額で129億8000万円を計上する。 そのほか今後、地域農業のリーダーとなる人材育成を行う教育機関などを支援する農業者育成支援事業も盛り込まれている(5億9500万円)。
担い手への農地集積を促すために農地の大区画化(1ha区画)・汎用化、農業水利施設の整備推進も進める。すでに農地の区画整備が行われている地域についても、畦畔の除去などによる区画拡大も行う。また、整備済みの水田は全体の6割になるが、そのうち3分の1が排水不良だとされ、麦・大豆の生産に不可欠な排水改良が必要となっている。基幹的農業水利施設も年間500施設程度が耐用年数を超過しており、整備が必要になっている。
こうした事業を中心に農業農村整備事業は23年度予算と同額の2129億円を計上した。
◆官民ファンド創設
「基本方針」で掲げた「戦略2」は「6次産業化・成長産業化、流通効率化」だ。24年度予算では「農林漁業成長産業化ファンド」を創設する。財政投融資資金として国が200億円の出資と100億円の貸付を行う予算を確保、民間資金と合わせてファンドをつくる。これをもとに地域ごとにファンドを創設し、そこからの出資で農林漁業者が中心となった6次産業化をめざす法人への支援を行うという構想だ。出資だけでなく経営支援も一体的に行う方針。
同時に6次産業化の専門家による経営支援への充実もはかる。24年度中に1000人規模のボランタリープランナーを確保し、農業者などへの個別相談の実施にあたるほか、輸出戦略の立て直しや観光など異分野との連携を専門とする人材の確保も図る。
「戦略3」は「エネルギー生産への農山漁村の資源の活用促進」とされている。目標は再生可能エネルギー比率を今後3年間で3倍に増加させること。このため農山漁村再生可能エネルギー導入事業を新規事業として盛り込んだ。24年度は▽地域における発電適地の洗い出し、▽再生可能エネルギー導入に向けた地域内の合意形成など推進体制を整備するほか、太陽光、風力、小水力、バイオマスを使った発電施設のモデル整備を行う。総額12億円。
そのほか農業者戸別所得補償制度は23年産と同じ仕組みで実施する。所要額は6901億円。規模拡大加算、耕作放棄地に作付けした場合の再生利用加算、畑地輪作での休閑緑肥導入などへの加算も措置した。
また、23年産米の販売価格が標準的な販売価格を下回った場合、その差額を交付する米価変動補てん交付金は294億円を計上した。農水省によると過去最大の6.5%の価格下落となっても補てんできる額を確保したという。