◆漁船の共同利用で故郷の暮らし復興へ
浜も海の中も瓦礫の山だった。多くの死者・行方不明者を抱え、働く場もなく収入の道も途絶えた。がんばれと言われても一体どこから手をつけたらよいのか。途方に暮れる内に歳月が流れゆく……。日雇いの仕事はあっても長続きしないのが現実である。
そんな中でいち早く、協同組合の精神を漲(みなぎ)らせて復興と生産に立ち上がった岩手県宮古市・重茂漁協が注目を集めている。まず青森や秋田など他県に出かけて中古船を確保、天然ワカメ漁を開始、養殖ワカメの種糸作業もやって翌春の収穫の目処をつけ、400隻の新造船の発注もした。サケやサバなど高収益のある定置網を優先して再稼動させ毎日水揚げしている。
地域に分散する住民は約1600人、組合員574人の市街地から遠く離れた僻地の漁協であるが、この組合の姿を朝日新聞は『漁船シェアリング』『こういう時には助け合いが大切、迷いはない』(5月11日)、NHKは『豊饒の海よ蘇れ―宮古重茂漁協の挑戦』(9月6日)、雑誌『世界』は達増拓也知事の『岩手のめざす人間と故郷の復興―答えは現場にある』(九月号)など、重茂漁協を絶賛しながら取上げてきた。
なぜこのような早業を実行できたのか? 震災・津波からの復興に取り組む協同組合の先進的な実践例として3.11以後の重茂漁協の挑戦の姿を紹介したい。
(写真)重茂漁協製氷工場やアワビの種苗生産施設などが失われた(「広報みやこ」より)
【プロフィール】
(まるやま・しげき)
1937年愛知県生まれ。生活クラブ生協連合会国際担当を経て1999年〜2001年ソウル大学留学。韓国聖公會大学大学院非常勤講師(協同組合論・社会運動史)。韓国農漁村社会研究所理事。エントロピー学会元共同代表。