日本の農業者は原発事故による風評被害で苦しんでいるが、欧州では食中毒事件などによる風評被害に農協はどう対応しているか、示唆を得るため特別報告書は3件の事例をまとめた。その1部を紹介すると…。
【ドイツ】2011年5月、病原性大腸菌の食中毒がドイツから国外にも広がり、風評被害で野菜が売れなくなった。エジプトからの輸入植物が病原菌を運んだのが原因とされた。 ドイツの青果物生産者団体中央会(BVEО)は会員農家に対する補償金の対象品目拡大をEU当局に要求し、被害額の算定や申請書類の作成などすべての作業を管理した。
しかし対象品目は追加されたものの補償金額は、被害額の3分の1程度だった。一方、同会は消費者の信頼回復へ資金を投入すべきだと主張。これに応えたEUは今後3年間に1500万ユーロを野菜の消費拡大事業などに投入し、実施団体などに50%補助をする。
事件当初、政府当局はキュウリ、トマト、レタスの消費をひかえるよう警告したが、BVEОの事務局長は対象品目について「こうした大くくりではなく、もっと、きめ細かい勧告がされていれば全体の損害を抑えることができたのではないか」と指摘した。
【イタリア】2010年5月、モッツァレラ・チーズ(ボール状のチーズのかたまり)が突然青色に変色する事件が起きた。イタリアの酪農家と酪農協同組合の連合組織グラナローロの製品だが、加工生産はドイツの工場である。
原因は生産用の水に含まれていた緑膿菌であり、連合組織には何の責任もなかったが、イタリアのマスコミはドイツの工場とを関連づけて報道し、チーズ消費は激減した。
これに対して連合組織は広報を積極的に進め、その一環として「工場開放デー」を企画し、一般市民の酪農工場見学が大規模に実施されたりもした。
イタリア国内6カ所のグラナローロの工場は緑膿菌汚染の疑惑をかけられたが、酪農家との関係にひびは入らなかった。酪農家は酪農協同組合の組合員であり、連合組織との関係は信頼に基づいて来たからだ。
【フランス】農協中央会は食品安全基準を守り、持続可能な農業を実践している農家に対し認証ラベルを発行する仕組みを開発した。食品汚染事件は何回も起きたが、この認証制度によって被害を最小限に食い止めることができた―と農協関係者は評価している。
農協組織にはこうした優位性があるだけでなく認証制度の実効を図る上で他の食品企業よりもフード・チェーン全体への影響力を行使しやすいというメリットがある。
「食品安全性確保の技術では農協のほうが優れていると断言するのは難しいが、農協は組合員により良いアドバイスと技術指導をすることができる。食品企業に比べ、それこそが農協の優位性だ」とフランス農協中央会幹部は述べている。
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この特別報告書はJC総研の要請の下に「協同組合ヨーロッパ本部」が2011年9月までに作成した。同本部はヨーロッパの各種協同組合を代表し、EUの行政府や議会に対してロビー活動を展開している。
《JC総研》
(社)JA総研と(財)協同組合経営研究所が2011年1月に合併して(社)日本協同組合総合研究所が発足した。