◆水稲の種子伝染性病害
水稲には糸状菌によるいもち病、ごま葉枯病、ばか苗病や、細菌による褐条病、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病およびシンガレセンチュウ病などの種子伝染性の病害がある。これらの病害虫を防除し、育苗期や本田での発病を抑えるためにも種子消毒が重要である。
[1]いもち病
いもち病菌は、籾の護頴、内外頴、時には玄米にまで侵入し、出芽後に感染し苗いもちが発生する。これは、本田での発生時期を早め、多発生を招く。種子消毒を行うことにより、本田での発生時期を遅くすることができ、かつ、発病程度も低く抑えることができる。
[2]ごま葉枯病
ごま葉枯病菌は、いもち病と同様に籾の内外頴や玄米表面に菌糸や分生子で存在している。育苗期の葉では黒褐色の条斑が生じ、葉がねじれる。苗が褐変する「苗焼け」が生じることもある。
[3]ばか苗病
ばか苗病菌は、内外頴の内と外、玄米の果皮、種皮、糊粉層に菌糸で存在している。病原菌は、浸種、催芽中に健全籾に付着したり、罹病苗の基部や籾にかびが生えて拡がる。
本病に感染すると苗は黄化・徒長する。罹病株、汚染株を本田に移植すると、本田でも本病が発生するが、その後枯死する。枯死した罹病株上に形成された分生子は、出穂後の籾に付着・侵入し、玄米を侵害する。この籾が次年度の感染源となる。
[4]褐条病
本病原菌は種子での存在部位は明らかにされていないが、内外頴の内側や玄米の外側に存在するものと考えられる。本病は苗以外では病徴を示さないため、外観で籾の保菌を見分けることはできない。本病は、育苗箱内に比較的均一に分散して発生し、また、上位葉での発病が少ないため、苗を掻き分けて見ないと発病を見落とすことが多い。
[5]もみ枯細菌病
本病原細菌は籾内部の鱗皮表面、頴の内部表皮表面で多く、玄米では表面に多い。本病原菌は、浸種、催芽、出芽、緑化期のどの時期でも保菌種子から健全種子へ伝染が起き、苗腐敗が発生する。
本病は、本田では籾枯れ症を発生させるので、本田での発病が見られたほ場からは採種をしない。
[6]苗立枯細菌病
本病原菌は籾の内外頴の下表皮直下の柔組織の細胞間隙に存在する。本病原菌は、催芽時以降に急増し、健全籾に感染し蔓延する。
本病も褐条病と同様に、苗以外では病徴を示さないため、外観で籾の保菌を見分けることはできない。
[7]シンガレセンチュウ病
本病原線虫は、内外頴の内壁に付着しており、玄米表面や種籾表面からは検出されない。外観で籾の保虫を判別することは不可能である。ただし、前年のほ場での線虫寄生密度が高く、かつ黒点米の含有比率が高い場合は、籾を水に浸すと内部の玄米の黒変状況を外から窺うことができる。
(続きは 【特集】現場に役立つ農薬の基礎知識[1] 水稲種子消毒のポイント で)