免疫不全豚は、免疫器官である胸線と、免疫に関与する主要なリンパ球を欠失し、抗体が産生できなかった。これら免疫不全の状態はヒト重度複合免疫不全症とよく類似していた。
今回の成功は、小動物のマウスでのみ可能だった免疫不全動物の開発を、ヒトとの類似性がより高い大型動物である豚へ発展させることを可能にした大きな一歩とされる。
また抗体医薬品の開発への利用、再生医療でのiPS細胞由来のヒト培養細胞の長期安全性試験、それに実用的なヒト組織や臓器の再生に向けた最初の一歩としても今後の活用が期待される。
この成果は6月13日付けの米国の専門誌「Cell Stem Cell」で公開される予定。
重度な複合型免疫不全マウスはすでにヒト造血系や免疫系のモデル、ヒト肝臓やヒト感染症のモデルなど多様なヒトモデルマウス作出に貢献しており、今回の豚はヒトの細胞や組織を移植した新たな大型ヒトモデル豚作出への一歩を踏み出した大きな成果だという。
今後はさらに免疫に関与する他の遺伝子の機能喪失も必要と考えられ、この開発にも取り組む。そして2種類の免疫不全豚を交配することにより作出した豚にヒト由来の細胞を移植することで「ヒト化ブタ」の開発を目指す。
《胸腺》
心臓の前面に位置する臓器。ニンパ球であるT細胞が発生する場。T細胞は胸線で分化後、免疫応答の調節や発達に中心的役割を果たす。
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