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「地域包括ケアシステム」とは?  これからの高齢者福祉がめざす姿

 JA全中は第26回JA全国大会で採択する大会議案の中で、JAが地域の中核として行政や地域の産学官・NPOと協力しながら「JA版地域包括ケアシステムの構築」をめざすとしている。
 「地域包括ケアシステム」とは今後さらに高齢化が進む日本社会がめざしていく福祉サービスの姿として厚生労働省が推進しているものだ。
 「地域包括ケアシステム」とは一体どんなものなのだろうか。

◆「地域包括ケアシステム」とは?

 一言でいうならば、高齢者にその日常生活圏内でさまざまなサービスをトータルで提供する体制のこと。さまざまなサービスとは、(1)医療(2)介護(3)介護予防(4)住まい(5)生活支援サービスの5つで、これらを分断して提供するのではなく、すべてを一体として考え、利用者のニーズに合わせて切れ目のない支援をしていこうというものだ。日常生活の中でこれらのサービスを適切に提供できるよう、日常生活圏域は利用者の家まで30分以内で駆けつけられる「中学校区」を想定している。
 地域包括ケアシステムを推進していくために厚労省では、(1)在宅医療や訪問看護の充実など医療との連携強化、(2)24時間対応の定期巡回・随時対応サービス等の創設による在宅サービスの強化など介護サービスの充実、(3)健康寿命を延ばすための介護予防に向けた取り組み、(4)見守りや配食、買い物といった生活支援サービスの推進、(5)サービス付高齢者住宅など高齢者の住まいの整備などを行っている。


◆なぜ「在宅」をめざすのか

JAが行う移動販売車による買い物支援 このシステムがめざすのは、高齢者が住み慣れた地域で在宅での暮らしを継続できる社会の実現だ。
 その背景には、2025年には75歳以上の人口割合が2010年の11.1%から18.1%になることや、高齢者の単独、夫婦のみの世帯が増加していくこと、認知症を患う高齢者の増加がある。
 こういった状況から、今後、要介護の高齢者が増えていくことが想定されるが、病院や特別養護老人ホームなど施設に入所するのではなく、高齢者の尊厳を重視し、住み慣れた地域の中で在宅で暮らせるよう支援することが望ましいというのが厚労省の考えだ。特に認知症の人などは生活環境の変化で症状が進行するケースもあり、健康状態や介護予防の点からも在宅での支援が重要となる。
JAによる介護予防教室 22年度に厚労省が行った調査でも、自分や家族に介護が必要となった場合、自宅で介護を受けたいという人が7割以上だったことからも在宅支援の体制強化が求められていることがわかる。
 厚労省の委託研究事業である地域包括ケア研究会の報告書では、地域のなかに存在する介護保険サービス(共助)、住民主体のボランティア活動(互助)、セルフケアの取り組み(自助)などは断片化されているとして、今後は「自助、互助、共助、公助」を役割分担しながら連動して提供できるシステムの構築を強調している。


(写真)
上:JAが行う移動販売車による買い物支援
下:JAによる介護予防教室


◆「支援センター」を核に

 「地域包括ケアシステム」を構築する上でその核となるのが「地域包括支援センター」だ。
 社会福祉士、保健師、主任ケアマネージャーの3人がチームとなり、(1)住民の相談を受け付ける窓口機能、(2)虐待防止・早期発見といった高齢者の権利擁護機能、(3)ケアマネージャーへの指導やそれらの地域内ネットワークの構築、(4)要支援者の介護予防プラン策定など―を担う。
 センターは現在すでにすべての市町村に置かれているが、今後は各サービスと利用者のニーズをつなぐコーディネート機能の充実が求められることになりそうだ。


◆「社会保障と税の一体改革」でも強調

 「地域包括ケアシステム」は昨年の介護保険法改正で今後の介護の将来像として強調されており、今年4月には▽訪問介護と訪問看護の連携による24時間対応の定期巡回循環・随時対応サービス▽小規模多機能型居宅介護と訪問看護を組み合わせるなどの複合型サービスの創設が施行された。
 また、「社会保障・税一体改革大綱」のなかでも地域包括ケアの実現に向けた具体策として24時間対応の訪問サービスの充実などが盛り込まれている。
 「地域包括ケアシステム」は要支援や要介護に該当する人だけでなく、すべての高齢者が住み慣れた地域で安心した生活を送れるよう地域全体で支えていくことが必要だ。
 今回取材した厚労省老健局振興課は「これまで介護事業だけでなく医療や生活支援、配食サービス、女性組織による助けあい活動などいろいろな活動に取り組んでいるJAには『地域包括ケアシステム』の実現に向けた取り組みに協力してほしい」と話している。

2025年の地域包括ケアシステムの姿

(2012.07.02)