◆マンパワーが不足
7月22日で東日本大震災発生から500日。中央本部会合前日の23日に記者会見した萬歳会長は「被災地には大きな爪痕が残っている。営農再開に向けた環境整備が進んでいない地域も多く先行きが見えない不安が募っている」と復旧・復興の遅れを指摘した。
津波被害を受けた農地約2.4万haのうち、政府は約4割が今年度末までに営農再開が可能になるとしているが、JA全中の調べでは、復旧しても普通に営農ができない状況だったり、営農再開といっても作業の一部を再開できるにすぎない状態も含まれているという。 萬歳会長はこうした現状にも関わらず「復興が進んでいるかのような報道や被災地のことを忘れたようなまったく感度の違う発言もある」と批判、「復興よりも先にやるべきことはないと思う、というのがわれわれの主張」と強調した。
復旧・復興の遅れは関係予算の執行状況にも現れている。23年度の関係予算(4次補正を除く)15兆円のうち執行率は60.6%。農水省関係予算は1.5兆円だが、執行率は40%にとどまっている。
その要因について冨士重夫JA全中専務は「復興計画は自治体任せで現場への国の関与が不十分」なことを挙げ「国が責任と自覚を持って推進していくべきだ」と訴え、とくに人的支援の強化が重要だと指摘した。
24日に岩本司農水副大臣にJAグループ代表が要請をした際、JA宮城中央会の菅原章夫会長も「被災農家の経営再開支援事業は評価できるが交付金などの手続きに時間がかかることなどに苦労している」と国のマンパワーが不足している現状を訴えた。
◆風評被害対策も急務
原発事故の被害も深刻化している。
JA岩手県中央会の田沼征彦会長は牧草の除染が進んでいない現状や東電の賠償金支払いも滞っていて「生活できない」農業者もいる苦境を要請で強調した。
JAグループは昨年4月から東電に対して損害賠償請求を開始。6月末現在、19都道県協議会が請求した。請求額は2306億円だが、6月末までに支払われたのは1523億円で一部請求については支払いが滞っているという。また、今年からは請求から2カ月後に本払いをすると東電は方針を示したが、「まったく実施されていない」(冨士専務)という。
放射能に汚染された稲わら処理なども動いていない。宮城県の菅原会長によると、県内で汚染稲わらが4700t、たい肥が4万t、牧草が9000t滞留しており、最終処分も決まっていない状況だ。
JA福島中央会の庄條【徳】一会長はこの冬、「寒いなか2万本の果樹を高圧洗浄し、水田の天地返しもするなど、農家はやることはすべてやった。検査をして安心・安全にもかかわらず風評被害は一向に収まらない」と強調した。
東京市場における牛枝肉卸売価格(和牛去勢)の全平均価格はこの6月で1kgあたり1669円と1年前の1400円台から回復した。しかし、福島産は同1307円と全国平均を大きく下回っている。
庄條会長は「検査で(新基準値の)100ベクレル以下なのに、なぜ差別されるのか。安全が確認されているのに、お客さんに安全です、と訴えながら販売しなければならないのははなはだ遺憾だ」と憤りも現し、岩本副大臣に対して正当な評価による販売を流通業界に指導することを求めた。
岩本副大臣は農水省だけでなく関係省庁連絡会議での協議にも要請を反映させるなどと話した。
要請項目は以下のとおり。
○復興推進体制の強化、○営農再開支援対策、○活力ある農業づくりに向けた農地等の整備対策、○国産農畜産物の安全性確保、信頼回復対策、○風評被害対策、○農地と農業生産の再生・確保対策、○稲わら、牧草、たい肥、乾燥椎茸等の一時保管・最終処分対策、○米の検査・隔離・処分対策、○東電および国による迅速かつ万全な損害賠償、○損害賠償金に対する税制特例の措置。
※【 】内の字は正式には旧字体です。