全国共済農業協同組合連合会
安田 舜一郎 経営管理委員会会長
地域社会にとってなくてはならぬ
不可欠な存在に
◆運動論と事業論を一体的に機能させる
――会長は長年、農協運動に携わってこられましたが、国連が今年をIYCに定めたことについてどういう感想をお持ちですか。
安田 リーマンショックによって市場原理主義の弊害が如実にあらわれたなかで、相互扶助、助け合い、絆という協同組合の精神の重要性を認められ、IYCが定められたことの意義は非常に大きいと思います。いまだに米国を中心に市場原理主義の方向にあるなかで、私たちがこのIYCをどう活用し展開していくのかが問われていると思います。
――新自由主義という方向ではだめだと、各国に協同組合の意義を考え、国民に周知させることを求めたのが国連の決議ですが、日本政府の対応はどうですか。
安田 残念ながらそういう意識はないと思います。鳩山内閣から菅内閣に代わったら突如TPP問題が出たように、協同組合精神とは真逆の方向に民主党政権は走っているとみています。私たち農業協同組合は他の協同組合組織としっかり連携して、地道に国民に呼びかけながら政府に働きかけていくことが必要です。
昨年の東日本大震災の際に、相互扶助や絆という言葉が注目されましたが、現実に世界の流れのなかで日本が率先して協同組合精神を前面に出してやっているかといえば、必ずしもそうではありません。
――そういう意味でも協同組合はさらなる活動をしていかなければいけない…
安田 協同組合である以上、常に意識を持って取り組んでいく必要があります。協同組合は運動論と事業論が車の両輪のように一体的に機能しないと、「論」にはなっても運動にはなりません。
◆原点を忘れず時代の変化に対応していく
――そういう意味でJAはこれからどういう点を核に取り組んでいくのですか。
安田 組合員の小さな力を結集して、農家の生活と暮らしを支えていくのが、本来の姿ですから、その原点にどう立ち返るべきなのか考える必要があります。ただし、いまでは戦後まもなくの状況とは、運動環境も事業環境も同じではありません。時代の変化をしっかりとらえたうえで、原点に立ち返り取り組んでいくことが重要です。
――東日本大震災で果たした協同組合の活動は、相互扶助や助け合い精神を発揮したすばらしい活動だったと思いますが、JA共済の取り組みについてはどう評価されていますか。
安田 共済金の支払は事業として当たり前のことですが、被災地域以外のJAをはじめ各県本部が率先して被災地の農業の復旧・復興のために助け合う取り組みは、協同の力、地域密着の事業展開のたまものだと思います。
地域社会により広く、より深く根ざす
――今回のJA全国大会は「次代へつなぐ協同」を掲げていますが、このなかで共済事業の果たす役割は何ですか。
安田 JA共済事業の保有契約者の約4割は60歳以上です。つまり地域農業の構造変化が起こっているということです。
農家の後継者が少なくなっているなか、地域農業をどう活性化するかということに真剣に取り組まなければ、私たちの事業環境は高齢化・少子化のなかで縮小スパイラルに陥ってしまいます。こうした構造変化をどう転換させていくかが、JAグループ全体の共通の課題です。
――協同を農業者の次代につなぐだけではなく、地域の人たちにも次代につないでもらい、地域の復活・活性化をしてもらうというわけですね。
安田 もちろんです。地域社会が活性化しないと地域農業も活性化しません。これは切っても切り離せないことです。残念ながら条件不利地域では、地域社会そのものが崩壊しかかっています。現在、地域社会を活性化させるための一つの方策として、再生可能エネルギーの事業化を目指す生産者やJA、森林組合、自治体などに対する資金・ノウハウの提供や共済による保障提供などができないか、農林中金と連携して検討しています。
――「JA共済の地域貢献活動2012」という冊子に「共済事業と地域貢献活動は車の両輪」だと書かれていますが…
安田 私たちは、交通事故対策活動や健康管理・増進活動など様々な地域貢献活動に長く取り組んできており、これからも継続していきます。地域社会により広く、より深く根ざして、「地域になくてはならない存在になる」それが私たちの使命を果たす最適な方法ということです。
――これは信用共済分離論に対する最大の反論になりますね。
安田 どんな企業であっても、地域になくてはならない存在になれば、なくすことはできません。
◆地域社会全体にメリット還元できる事業を
――そういう意味で「再生可能エネルギー」にも取り組んでいく…
安田 私たちが取り組むのではなく、地域自らが立ち上げ取り組んでもらわないと、地域農業の活性化、地域の活性化につながりません。私たちはそれを支援していくということです。
そのときに注目するのは林業の荒廃です。間伐材や雑木林を活用したバイオマスや木質チップによる発電はもちろんですが、そのときに発生する熱を地域の施設園芸などで再利用して相乗効果をあげ、地域振興につなげていってほしいと私は考えています。それから全国のいたるところで小水力発電ができます。
――これからJAに期待することは何ですか。
安田 「地域に必要不可欠な存在になる」ためにどうするかを考える必要があります。これまで事業分量を示す指標は保有契約高でしたが、「地域社会に必要不可欠」な存在を目指すのであれば、生存保障のニーズが高まっている今、「保有契約者数」にも注目する必要があります。ニーズにこたえることで契約者を増加させていくことに注力していただきたいです。
――ということは、准組合員に働きかけていく…
安田 地域社会全体に働きかけていき、准組合員にとってのメリットだけではなく、地域社会全体にとってどのようなメリットを還元していくのか、JAと一緒に考え事業展開していきたいと思います。
(インタビュアー・梶井功(東京農工大名誉教授)氏の「インタビューを終えて」は、コチラから)