農政・農協ニュース

農政・農協ニュース

一覧に戻る

【第26回JA全国大会記念 トップインタビュー】農林中央金庫・河野良雄理事長

 「次代へつなぐ協同」をメインテーマに、第26回JA全国大会が開催される今年は、国連が「国際協同組合年」と定めた年でもある。市場原理主義の破綻を示したリーマンショックによって「100年に1度」といわれる世界同時不況が進むなか、改めて協同組合の存在意義と役割が問われているといえる。
 そこで、JAグループ全国連のトップである萬歳章JA全中会長、中野吉實JA全農会長、安田舜一郎JA共済連会長、河野良雄農林中金理事長に、今日の協同組合の役割とこれからのJAグループのめざすものなどを、梶井功東京農工大学名誉教授に聞いてもらった。

農林中央金庫
河野 良雄 理事長

JAの一員になることが
ステータスとなるように


◆地域の人たちも支援した協同組合

 ――今年は、国連が定めたIYCですが、いま協同組合について思うことは何ですか。
河野 良雄 理事長 河野
 農林中金は「リーマンショック」の影響を受け、2008年度決算において大幅な赤字を計上し無配となることを余儀なくされました。このときに、農林中金のあり方について、一部の方より「協同組合精神に則っていないから」といったご批判をいただきましたが、私は決してそういうことではなかったと考えています。農林中金は時代の変革に合わせて、JA、JF(漁協)、森林組合といった協同組合を日本の中でより存在感のある組織とするために、収益基盤の底上げに注力してまいりました。
 しかし、世界経済は市場原理主義によって行き過ぎが生じ、私たちもその中で仕事をしてきましたので、大きく躓いて失敗をしました。この時の経験が、もう一度、原点である協同組合精神に戻って、仕事のあり様を再構築するきっかけになりました。
 そして、昨年3月に東日本大震災が起こり、不幸にも協同組織のメンバーに甚大な被害をもたらしました。その一方で、震災からの復旧・復興の取組みを進める中で協同組合の特徴が浮き彫りになりました。
 震災で一番被害を受けたのは、農山漁村地域です。私たちは、そこに組合員が存在する限り、インフラとして店舗を配置して組合員へのサービスを継続していくといった使命を担っています。被災地域において毛細血管のようにネットワークを張り巡らせていたからこそ、震災により我々、系統組織は最も大きな被害を受けました。
 そうしたなかで私が感じたことは、一般的に企業が災害により被害を受けた場合は、本社が支援するのはその地域の従業員までです。一方で、私たち協同組合は、JAやJF(漁協)の組合員・職員だけではなく利用していただいている地域の人たちまでを対象として支援の輪を広げ、かつそれを自発的かつ自然に取り組んできました。これが協同組合組織の特徴ではないでしょうか。

◆再生可能エネルギーで地域を活性化する

 ――今年は、IYCと同時に「持続可能なエネルギーをすべての人に」と国連がいっている年でもありますが、これに対する取り組みはいかがですか。
 河野
 今回のJA全国大会議案には内橋克人先生が提唱されているFEC自給圏(フード・エネルギー・ケア)の考え方が盛り込まれています。地域で見過ごされてきたエネルギー資源を見直して最大限活用していく。我々、第一次産業を基盤とする系統組織は、再生エネルギーとなる資源を豊富に保有しており、その活用余地は非常に大きいものと考えます。
 JAグループにおいても、再生可能エネルギーについて、どこの地域で事業展開を行っていくか、関係団体等とも協議しながら検討を進めています。私たちは短期的な収益を求めるのではなく、地域が再生エネルギーを中心に活性化し、新たな雇用がうまれるなど経済的な波及効果の大きい仕組みにできるきっかけになるのではないかととらえ、大会議案を具体化すべく積極的に取組んでいきます。


◆地域金融機関として信頼されるJAバンクに

 ――今後、力点をおいていかなければいけないと考えていることは…。
 河野
 JA貯金は今年12月に90兆円の大台に乗る見込みです。JAバンクは、日本の個人預金市場において約1割のシェアを有しております。一方でフランスやオランダなどには、さらに大きな存在感を有する協同組織金融機関が存在します。大震災などを通じてJAバンクの取り組みや存在価値は一定の評価をいただいていると考えますが、今後さらに各地域で独自の存在感のある金融機関となることを目指していきたい。具体的には地域でのシェアを拡大して貯金量100兆円という目標に向かっていく。そのために経営力・営業現場力を備えたJA人材を育成すると同時に、仕事のやり方を見直し利用者目線での事業展開をJAバンク全体で徹底していきたい。
 ――農協批判の代表的なものに「信用・共済分離論」がありますが…
 河野
 現在、金融機関は重要な社会的なインフラのひとつで、それが破綻すると大きな社会問題を引き起こします。その重要な社会インフラの一翼を私たちJAバンクは担っています。
 私たちは10年前の平成14年に「JAバンクシステム」をつくり、農林中金がJA・信農連と一体的な事業運営を行い、JAバンクの信頼性を確保する仕組みを構築しました。JAの健全性を維持し利用者からの信頼に応える事で、社会インフラの一翼としての責任を果たすべく取り進めてまいりました。これまでの取り組みの結果が数字に表れています。総合事業体であるJAは、准組合員・利用者の増加に見られるように、地域社会において、その利便性・安心感を高く評価していただいている。我々は協同組織ですから、原点は組合員・利用者がどう考えるかであり、それこそがこの分離論に対する答えだと考えております。

◆農と食に関係する人にウィングを広げて

 ――いま個々のJA、現場に望みたいことはどういうことですか。
 河野
 JAバンクシステムの導入により全国のJAは、自己資本比率等の財務基盤に問題はありません。今後の課題は、営業推進力の更なる強化です。組織外に対しても積極的に情報発信をして、JAの存在価値を地域の人々に広く理解していただき、JAの組合員や准組合員になることが、その地域でのステータスと感じられるような魅力のある組織にしていきたい。顧客と接する営業の現場においては、そのような意識をもって仕事を進めていって欲しいと考えております。
 ――JAはこれからは、地域の人たちの組織にしないといけないのではないかと感じていますが…。
 河野
 「農業」は、仕事として農作物を生産している人だけのものではなく、家庭菜園を行っている人、あるいは食や健康・環境へ高い意識をもって活動されている方も広い意味で農業に関係していると思います。できるだけウィングを広くして、地域の中でJAに入ってくる人は拒まず、農や食に関係する人が自らJAを利用しようということであれば、積極的に受け入れていきたい。その際は、准組合員の意見もよく聞きながら、仕事を進めていくことも重要になってくると考えております。


(インタビュアー・梶井功(東京農工大名誉教授)氏の「インタビューを終えて」は、コチラから)

(2012.10.12)