JA主導の6次産業化どう進めるか
農業者・JAが流通・加工に参入しやすい環境整備を
◆売り先を考えてから作る品目を選ぶ
セミナーのテーマは「小さなJAの大きな挑戦―6次産業化(農商工連携)と地域振興―」。これはJAあしきたの改革スローガンでもある。同JAは、「甘夏みかん」「でこぽん」のかんきつ産地として知られ、行政・商工業者と連携した加工による農産物の商品開発に積極的に取り組み、6次産業化による地域振興の先進地として知られる。
JAあしきた管内では、かんきつのほか辛みの少ないタマネギ「サラたまちゃん」「あしきた牛」なども生産。これらの特産物を加工し、付加価値を高めて販売する。現在約330の商品アイテムを持ち、ブランド商品として独自の販売システムを確立している。
同JAは1950年から2006年まで麺類の製造販売の経験があり、これが6次産業化の原型になっている。JA自体が加工するのでなく地元の商工業者に委託し、これを買い上げる。JA主導の連携を維持し、産地が単なる原料供給に終わらないようにするためである。
また連携の枠組みとして、県外を含めた関連企業100社を網羅した「JAあしきた直売ネットワーク協議会」を組織。コンビニエンスストアとも連携し、店内に地元産品のブースを持つ。セミナーの基調講演で高峰博美組合長は「作ってから売るのでなく、売り先を考えて品目を選ぶべきだ」と、流通の重要性を強調した。
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上:6次産業化の進め方について意見交換した新世紀JA研究会のセミナー(水俣市)
下:「でこぽん」の栽培ハウスを見学する新世紀JA研究会セミナー参加者
◆卸業者との提携を
セミナーでは、卸売会社の立場から東京青果の笹部正専務が6次産業化と流通について講演。このなかで2次、3次産業との連携は、構想の段階から中間流通業者、とくに卸売会社は鮮度の高い情報を持っており、提携の相手として利用すべきだと話した。
さらに九州大学の福田晋教授が、現地でのコントラクターの経験などから、食品・関連企業との提携は農村サイドの農業経営体の役割が減退し、系列化する可能性があることを挙げ、自ら行う部分と他者(第2次。第3次企業)と連携する部分のバランスが重要になることを指摘した。
◆大会アピールも採択
JAあしきたと二人三脚で農商工連携に取り組んでいる地元芦北町の竹崎一成町長は、同町が制定した「未来につなげる芦北町農林漁業振興基本条例」を紹介。町や農・林・漁業の役割を明記し、町とJA、地元商工業者が一体となって地域産業振興に取り組んできた経緯を報告した。
セミナーは、最後に「大会アピール」を採択。
(1)第26回JA全国大会決議の推進(2)6次産業化への取り組み(3)持続性のある農業経営政策の確立(4)環太平洋連携協定(TPP)など農畜産物市場開放への対応(5)東日本大震災への対応(6)消費税への対応―など、確認事項や政府、JA全国連への要望などを決議した。
なお、次回セミナーは茨城県のJA水戸で開く。
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上:農商工連携の象徴、JAあしきたのファーマーズマーケット「でこぽん」
下:コンビニ店舗内の「JAあしきた丸ごと販売コーナー」
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■小さなJAの大きな挑戦■
高峰博美・JAあしきた組合長
JAあしきたは正組合員4500人。「小さなJAの大きな挑戦」をスローガンに地域農業の振興に取り組んでいる。それには行政のほか、農林漁業の1次産業、製造加工の2次産業、物流販売の3次産業との連携が欠かせない。
とくに2次産業には、職種に応じて特産物の製造加工を委託するとともに彼らの販売網を利用している。この販売体制が「農産物直販ネットワーク」で、ここには他のJAや卸売会社のほか、市役所やマスコミなど直接食品産業と直接関係のない業種も多い。
農産物価格の低迷が続く中で、1次製品だけの生産販売では採算が合わなくなった。2次、3次産業との連携による6次産業化こそJA事業そのものだと考えている。それは他力本願でなく、JA事業として本気で取り組まなければ実現しない。
主力のデコポン、甘夏みかん、特徴あるタマネギ「サラたまちゃん」「あしきた牛」「あしきた茶」を中心に、(1)地元企業に製造加工を委託し、(2)それを買い取ることで原料供給から商品提供、すなわち「6次産業化」へシフトする。さらに(3)買い上げによってJAグループの主導を確保するようにしている。
■中間流通業との連携が成功の鍵■
笹部正・東京青果株式会社専務
6次産業化は農山漁村に由来するさまざまな地域資源を商品化し、有効活用することである。商品化は需要にあったものでなければならないことは当然だが、産地が需要を創出することは困難であり、多くのエネルギーとリスクを伴う。
したがって最終消費商品だけでなく、需要にあわせた1次加工品、2次加工品による提携という展開もある。6次産業化は、構想の段階から第3者(小売業等の流通)を参画させ、確度の高い計画を作成することが重要だ。とくに2次、3次産業との連携には中間流通をうまく利用することがポイントだ。この面で卸売会社は2、3次産業と接点があり、鮮度の高い情報を持っている。
農産物や食品の販売環境は常に変化しており、その対応にはスピード感が求められる。東日本大震災後、現地の物流に大きく貢献したのはコンビニエンスストアであり、その対応に学ぶべきである。 野菜の抗酸化力、免疫力、解毒力、酵素力の研究が進み、多くの大学などの研究機関を動かし、研究を進めている企業もある。青果物の価値創造が拡大しており、「野菜・果実の力」への理解が流通業者や消費者に浸透してきた。これからは企業や大学などとの連携によってお互いの持つノウハウを活用することが重要だ。
■単なる原料供給者にならないためにJAの機能発揮を■
福田晋・九州大学教授
農業の産地は、主産地形成にみられるように「規模」の経済性を追求し、次に零細な複合経営から大規模複合経営へ、そして地域複合へと「範囲」の経済性を求め、次には異なる主体間による「連結」の経済性、つまり6次産業化へと進んだ。「連結の経済性」は異なる主体間の経営資源の共有関係を生み出し、その共有による費用の節減だけでなく、新規事業を創造するという考えもある。
それは農業サイドへの波及効果や所得形成への効果が小さい商品開発に限定するものではない。農と食をベースとする新しい産業を地域に集積させ、農業と食品・関連企業との連携を強化し、サプライチェーン(供給連鎖=商品供給に関わる複数企業の連鎖)とバリューチェーン(価値連鎖=付加価値をつける過程の連鎖)とを統合した新しいフードシステムの視点が必要だ。
6次産業は、原料調達、雇用確保の面で農村と連携し、地域を活性化させる地域内発型の産業だ。したがって原料や食材調達を広域化すると地元の生産とのフードチェーンが弱まる。また地域外の企業との連携で依存関係が深まると、パートナーシップの関係が失われ、農村サイドの経営体は単なる原料供給者になる恐れがある。それを防ぐためにも、6次産業をコーディネートするJAの役割がある。