◆報徳思想で町づくり・人づくり
二宮尊徳(1787〜1856年)は「至誠」「勤労」「分度」(足るを知る)、「推譲」(他者へ譲る)の精神をもとに家や村の再建・再生に努めた。その手法は「報徳仕法」(報徳思想)として、弟子たちがつくった結社「報徳社」によって全国に広まった。
全国報徳研究市町村協議会は東海・関東・東北を中心に、尊徳やその弟子たちの指導を受けた地域を含む18市町村が参加。この中には原発事故の被災地である福島県の相馬市、南相馬市、大熊町、浪江町、飯館村の4市町が含まれている。
協議会の目的は「報徳思想に学び、混迷した社会を切り開くとともに自治体の行政改革をすすめ、地方分権の時代に備えたまちづくり・ひとづくり等について協議する」で、極めて今日的な問題意識のもとに活動している。
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報徳精神を次代につなぐことを確認した全国報徳サミット
◆被災地の復興を支援
今回のサミットのテーマも「報徳仕法から学ぶ『未来と紡ぐまちづくり・ひとづくり』」。
サミットでは主催地の御殿場市の若林洋平市長が、「被災地の復興を引き続き支援するとともに広く地域同士が連携し、未来に向かって活力のある地域づくりに決意を新たにして取り組まなければならない」と決意を述べた。協議会は「3・11」の震災後、福島県の会員自治体に対して有形・無形の支援を行い、特に大震災で遺児や孤児になった子ども(128人)を支援するため、子供支援部会を設け、募金活動を展開している。
会員自治体の支援を受けた相馬市の立谷秀清市長はディスカッションで、「尊徳翁の付き合いで、日ごろの結びつきの大切さが分かった。復興後は防災用の巨大な倉庫を建設し、他の市町村が災害を受けた時には支援する。推譲には推譲で応えたい」と述べた。
サミットで基調講演した松沢成文・前神奈川県知事は、二宮尊徳から学ぶこととして、改革に取り組むには、(1)理論だけでなく実践、(2)数値に基づく合理主義、(3)参加者の自立心―の必要性を強調。「歴史や先人から知恵を学び、本当に素晴らしいものを将来につなげていこう」と呼び掛けた。
協議会参加市町村の多くは、小学校で報徳思想を教えている。御殿場市の朝日小学校では二宮金次郎の伝記等を課題図書に挙げ、これをもとに「二宮金次郎新聞」を発行。また同市富士岡小学校では地元の「遺産」探しで、金次郎を取り上げ学習している。これらの取り組みを小学生が自ら発表し、会場を盛り上げた。各市町村もパネルディスカッションで、さまざまな取り組みを報告した。
大会宣言では、東日本大震災を踏まえ、「困難な時代こそ、次の時代へ残し、繋ぐべき大切な絆・地域を見つめなおし育てることが必要。多くの疲弊した農民を救った尊徳翁の至誠・勤労・分度・推譲の訓えを学ぶことは大変意義深い」として、「地域が力を合わせ、真心をもった元気な子どもが育つまちづくりをめざすとともに、推譲の精神に基づき、東日本大震災で被災した子どもたちが健やかに育つよう、しっかりと支えることに努める」と宣言した。
なお、福島県以外の協議会参加市町村は、北から豊頃町(北海道)、日光市、那須烏山市、茂木町、真岡市(以上栃木県)、桜川市、筑西市(以上茨城県)、秦野市、小田原市、開成町(以上神奈川県)、御殿場市、掛川市(以上静岡県)、大台町(三重県)。次回のサミットは秦野市で開く。
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上:報徳思想を学ぶことの意義を報告したパネディスカッション
下:報徳思想の学習の成果を報告する小学生たち