提言

JAの現場から

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JAの真価は農の守護人(まもりびと)

えひめ南農業協同組合
代表理事組合長 林 正照

 先般、夜に自宅の電話が鳴った。「近々伺うので時間をとって欲しい」とのこと。生産組織の代表からだった。 早速土曜の夜、地域代表の4人と共にやってきた彼が、世間話もそこそこに切り出したのは鳥獣被害の件、特に猪のことだった。

◆深刻化する鳥獣被害

えひめ南農業協同組合 代表理事組合長 林 正照 先般、夜に自宅の電話が鳴った。「近々伺うので時間をとって欲しい」とのこと。生産組織の代表からだった。 早速土曜の夜、地域代表の4人と共にやってきた彼が、世間話もそこそこに切り出したのは鳥獣被害の件、特に猪のことだった。要旨は、「特別区域を設け、年間を通じ罠をしかけて我が園を守りたいので、JAとして協力して欲しい」ということであった。事実、被害は年々増え、電気柵などの防護ネット被害も広範囲にわたっている。
 悔しいのは収穫期直前に“狙われる”ことだ。そして不思議なことに同じ物でもおいしい方を狙う。イノシシは選別ができるのだ。そして一度味をしめると補強したネットさえかいくぐり、繰り返し犯行に及ぶ。生業(なりわい)としてではなく、生き甲斐(いきがい)として作物を育てている高齢者の農地にもその被害は及ぶ。彼らの言い分は痛いほどわかる。なんとか年間を通して罠を仕掛けて捕獲できないものだろうか。法的な制約が障壁となるのはよく耳にする。
 しかし、被害に対し誰が責任を取るのか。人間の生活を脅かしてまで、イノシシの保護が優先されるのはおかしい。私は最近、行政での会議の度に訴える。「人間とイノシシ、どっちが大切なのか」と。
 
◆温暖化の進行も懸念
 
 鳥獣被害は今に始まったことではない。鳥獣の食物生産の源であった雑木林を伐採し、人工林に変えたのは私たちである。薪を使わなくなったことも助長した。畑の隅に残さを捨てるのも私たちだ。主食のなくなった鳥獣は危険を冒して里山から人里に下りてくる。夜から昼へと行動をかえる。さらに“イノブタ”化したイノシシは、一度の出産頭数が2〜3頭から10頭前後に増殖した。
 7月には県、市、JA、森林組合、農業共済組合、猟友会などによる「宇和島市鳥獣害防止総合対策協議会」を立ち上げた。目先の対処ではなく、生態系の維持を含めた長期にわたる環境構築を願う。
 今一方、環境で気にかかるのは温暖化である。学術的にも、作物の生育分布が北上しているのは多くが指摘するところである。
 従来、当JAの管内には青果専門JAがあり、県域の柑橘生産及び出荷については専門JAで取り扱っていたが、今年度4月に両JAが合併したことにより、柑橘についても本格的に取り組むこととなった。これまで、ともすれば互いの動きが制約されるきらいもあったが、この合併により十全な活動が期待される。しかし合併の最終目的は、何にも増して生産農家の所得向上であると考える。
 
◆消費者目線で考える
 
 その実現のために4つの目標を掲げている。それは、(1)「少しでも高い販売金額をめざし、(2)物流及び撰果・荷づくりコストを抑え、(3)生産資材価格を低減し、(4)生産者は消費者に目線をおくこと、である。
 かつては、「いいものをつくれば高く売れる」と説き続けた指導員からも、近年では「いいものができても高く売れない」現象に戸惑いの声が聞かれる。家族団らんのコタツの上に、旅行のともに、はたまた缶詰やジュースなど、日本人の生活に欠かせないみかんであったが、最近の消費動向を見ると明らかに嗜好の変化がうかがわれる。園地には、その時代が育ててきた様々な品種に、園主それぞれの思いが込められてきた。温州、ポンカン、デコポン……。それは、自分の時代を代表する味を探し求めるロマンでもある。
 そして近年、世代交代した若い園主たちが思いを馳せるのは、せとか、はるか、南津海(なつみ)、甘平(かんぺい)、タロッコなどである。温暖化にも対応するこれらの品種が、やがてブランドづくりの大きな力となるであろう。我々は、その夢とロマンを、広く農に携わる一員として応援していきたいものである。
 
◆農地守る打開策を
 
 以上、二つの話を挙げてみたが、前者は小さくはあるがひとつの“守り”であり、後者は将来に備えた“攻め”の取り組みとして捉えることができよう。そしてこの攻守の手段としてJAに与えられているのが、国や行政が策定する様々な制度である。これらを縦横に利活用することで、農業に立ちはだかる問題を打開することができる。
 最近で言えば「改正農地法」や「中山間地域直接支払制度」などであろうが、その一方にWTO農業交渉や特定農業法人制度といった“課題を抱えた取り組み”も並存する。さらには耕作放棄地の増大や、限界集落といったコトバも聞かれだした。そう考えていくと農業の将来に明るい兆しは見えてこないようだが、耕作放棄の前に手を打てば農地としての機能は守られる。
 そこで当JAでは高齢化や担い手育成、あるいは集落営農も視野に入れた「経営受託」や、「シーズンワーク」も含めた農業ヘルパー制度などの「無料職業紹介事業」に着手した。あるいは小学生を対象とした「あぐりスクール」をはじめとする次世代育成、経験だけでなく知識・情報を兼ね備えた農家を育成する「南予地域活性化塾」などにも取り組んでいる。
 
◆農協人の矜恃と責任
 
 世界では食料危機が迫っており、輸入に頼った食料供給が有事の際には非常にもろいものであることは、皆の脳裏に潜在する。もう二度と自国の民に、次世代に“ひもじい”思いをさせてはならない。それは“農”を生業とするものの使命ではないだろうか。Aコープは言うに及ばず、スーパーにはJAグループの名をまとった青果物が席巻している。その光景を見ると、農協人としての矜恃と責任を改めて感ずる。
 前述の“与えられた手段”の他に、私たちにはグループのスケールと結束力がある。昨年より展開する「みんなのよい食プロジェクト」などはもっともっとその力をつぎ込んでいい。協同組合間協同など、信念とネットワークのきずなを駆使し、“農の守護人(まもりびと)”としてJAの真価を発揮していきたい。

【略歴】
(はやし・まさてる)
 昭和15年愛媛県生まれ。平成13年3月産能大学卒業。昭和37年西三浦農協入組、平成3年宇和島農協参事就任、5年宇和島農協専務理事就任、9年えひめ南農協生活事業本部常務就任、10年えひめ南農協常務理事就任、13年えひめ南農協代表理事専務就任、16年えひめ南農協代表理事組合長就任。現在に至る。平成19年愛媛県信連経営管理委員会会長就任。現在に至る。

(2009.07.30)