◆くすぶり続ける、協同を否定する論調
5月11日の日本農業新聞は一面でこう報じた。「独禁法適用除外見直し 協同組合否定に JAなど14団体 共同声明で反論」。このところ、協同組合に対する「攻撃」とも言いたくなるような動きが目立っているが、この件はかねてよりくすぶりつづけている最大の「攻撃」の一つである。当然のことながら私たち生活クラブ生協連合会も、この問題を容認できないとの立場から、この共同声明に名を連ねることにした。
ここではこの問題に立ち入らないが、協同組合は本来、市場原理主義的なものに対する民衆の自主的・自発的な生活防衛のための対抗運動として出発し、固有の存在感をもってその社会的使命を果たすことを目的とする。今日においても、協同組合はその可能性を大いに潜在させているはずである。しかしわが国においては、あとで述べるように協同組合は、「内憂外患」とも言えるような深刻な事態に陥っている。
◆30周年を機に再読したい「レイドロー報告」
ところで今年は協同組合にとって重要な節目となる年である。ICA(国際協同組合同盟)は1980年のモスクワ大会で「西暦2000年における協同組合」(通称「レイドロー報告」)という歴史的な文書を採択した。今年はそれが採択されてから30周年という記念すべき年なのである。
この「レイドロー報告」が採択された時代背景を振り返ってみたい。1972年に『成長の限界』と題された「人類の危機レポート」が発表され、資源と地球の有限性の問題が提起される。日本でも74年に有吉佐和子さんの『複合汚染』が出版される。73年にはオイルショックが勃発する。神野直彦先生(関西学院大学教授)は最近のご著書で、このオイルショックについてこうお書きになっている。「第二次大戦後の高度成長を可能にした重化学工業を基軸とする産業構造の行き詰まりを意味していた」と(『「分かち合い」の経済学』)。加えて、ここで看過してはならないこととして、「新自由主義」の登場がある。79年には英国でサッチャーが首相に、81年には米国でレーガンが大統領に就任する。
「レイドロー報告」は、まさにこのような今日の政治?経済?社会の危機に結果する重要な歴史的転換点(80年前後)において、予見される近未来社会(西暦2000年)の困難性をふまえ、そのような時代であるからこそ協同組合の有効性を確認し、そうあるべく協同組合運動の本来性を回復しようとしたのであった。
その先見性に基づいた問題提起の一つひとつは今も色あせてはいない。しかし、レイドローが協同組合人に示したこれらの課題は、いまもなおほぼ手つかずに残されてある。
(写真)4月30日に開かれた第2回規制・制度改革分科会、内閣府で。
◆「新しい公共」の基軸はどこが担うか
レイドローはこう言っている。「現代経済の最も顕著な傾向の一つは、巨大な企業と巨大な政府という二大機構の癒着化傾向である。市民に残された唯一の別の選択のみちは、自分たち自身のグループ、とくに協同組合をつくることである」。
公的(政治)セクター、私的(企業)セクターと並び、協同組合がその固有な存在感を社会?経済的に、あるいは政治的に発揮することによって(協同組合セクター)、「食料」「環境」「格差」等の人類史的な諸課題について対処していかなくてはならない。
しかし現状はどうであろうか。日本では82年に中曽根首相が登場して新自由主義への転換が開始され、小泉首相の時代にその矛盾は極限にまで達してしまった。こうしたなかで国民は政権交代を選択し、鳩山首相がその所信表明で「新しい公共」を主張して登場した。大いに期待したのであるが、遺憾なことに、協同組合はこの「新しい公共」の蚊帳の外にあるように見受けられる。「市民に残された唯一の別の選択のみちは、自分たち自身のグループ、とくに協同組合をつくることである」と言う場合のこの協同組合こそ、「新しい公共」の基軸にあるべきはずのものである。しかしそうなっていない。なぜこうも協同組合の存在感が希薄なのであろうか。
◆進化する協同組合自身の問題
レイドローは、協同組合はこれまで3つの危機に直面してきたと言う。第1の危機は、協同組合が社会の中で認知されず、人びとの間に信頼を築き得ないこととしてあった「信頼性の危機」。第2の危機は、資本主義の大海の中で、他の私企業との熾烈な競争からもたらされる「経営の危機」。そして、今日(80年当時)直面しているのが第3の危機としての「思想的な危機」である。レイドローはこの危機の特徴を、協同組合が他の私企業とは異なる独自の役割を果たしているのかという、本質的な疑問に根をもつものだと説明している。
しかし協同組合は、この「思想的な危機」を克服し得ないまま30年の歳月を費やし、今日においてはこの3つの危機が複合化・重層化され、「三つ巴の危機」とも言えるような深刻な状況にある。冒頭で「内憂外患」と書いたが、補足すれば、つまりは外からの「攻撃」と内からの「瓦解」という形で(会社化、大規模化、機能分断等)、その危機が進行しているように思う。なんとしてもこの状況を打開しなければならない。
◆「国際協同組合年」をバネに危機を吹き飛ばそう
このような形で危機が進行している原因の一つに、日本の協同組合法制が農協法、生協法等々とタテ割りになっていることがある。これだと個別に「攻撃」されて、他の協同組合からすると対岸の火事になりやすい。このままではジリ貧なので、「協同組合セクター」として連帯関係を強化し、協同組合の存在感を内外に強く押し出していく必要がある。その意味では、独禁法適用除外見直しの問題で、14団体が共同声明に連名でその意思を示したことの意義は大きい(別掲)。
国連は昨年末、2012年を国際協同組合年とする決定をした。市場原理主義の嵐が世界中で吹き荒れた後の、より一層深刻化した「食料」「環境」「格差(貧困)」等の問題群に対して、協同組合がそこで果たすべき役割を重視したが故の決定である。これを単なるイベントに終わらせることなく、意義あるものとしていかねばならない。国際協同組合年を契機にして、協同組合の固有の存在感を社会に示し、確固たる「協同組合セクター」の地歩を築いていきたいものである。
その上で、これは私見になるが、タテ割りの協同組合法制を改革するため、各種の協同組合を横断して協同組合原則を宣揚する、協同組合基本法とも呼ぶべき理念法の制定が、模索されてよいのではないかと思う。
【筆者略歴】
かとう・こういち
昭和32年生まれ。昭和55年生活クラブ・神奈川入職。平成12年生活クラブ生協連合会専務理事、18年より現職。市民セクター政策機構常任理事、(財)協同組合経営研究所理事。
協同組合と株式会社との一般的な違い | ||
協同組合 | 株式会社 | |
目的 | 組合員の生産と生活を向上させる (組合員の経済的・社会的地位の向上、組合員および会員のための最大奉仕) 〈非営利目的〉 |
利潤の追求〈営利目的〉 |
組織者 | 農業者、漁業者、森林所有者、勤労者、消費者、中小規模の事業者など〈組合員〉 | 投資家、法人〈株主〉 |
事業、利用者 | 事業は根拠法で限定、事業利用を通じた組合員へのサービス、利用者は組合員 | 事業は限定されない、利益金の分配を通じた株主へのサービス、利用者は不特定多数の顧客 |
運営者 | 組合員(その代表者) | 株主代理人としての専門経営者 |
運営方法 | 1人1票制 (人間平等主義に基づく民主的運営) |
1株1票制 (株式を多く持つ人が支配) |
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(JA全中の資料より)
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【「協同組合」の独占禁止法適用除外に関する緊急共同声明】 (全文)
協同組合は、消費者、農林漁業者、小規模事業者などが自主・自立の精神のもと、「相互扶助」を基礎に、経済的弱者の自衛組織として発展してきた。
協同組合の目的は、消費者、農林漁業者、小規模事業者などがひとり一人では実現することが困難な生活防衛や経済的事業を協同して行うことによって経済的・社会的地位の向上をめざすものである。
この協同組合の目的を実現するため、協同組合が発展し、市場において有効な競争単位となり大企業等と競争することができるように、独占禁止法は協同組合の適用除外制度を措置している。協同組合について国際的に確認された[1]加入・脱退の自由、[2]一人一票制、[3]利用分量配当、[4]出資利子制限の「共通の基本原則」を踏まえ、このような要件を満たす組合の行為を独占禁止法が目的とする「公正かつ自由な競争秩序の維持促進」と同じ趣旨に基づくものとして位置付けている。
国際化等により地域・経済格差が急速に拡大し、高齢化や環境問題等による構造変化が着実に進んでいる今日の我が国において、協同組合活動の重要性はますます大きくなっており、その基本となる「共通の基本原則」は現在においても協同活動普遍の原則である。
独占禁止法の適用除外の議論においては、消費者、農林漁業者、小規模事業者などが行う共同経済行為は、形式的・外観的には競争を制限するおそれがある場合であっても、規模やシェアなどの形式的要件・判断されるのではなく、協同組合「共通の基本原則」に沿った運営がなされているかにより判断されるべきである。
「共通の基本原則」に則って運営される協同組合について、形式的・外観的要件のみをもって適用除外としないという考えは、そもそも独占禁止法が適用除外制度を設けた趣旨を否定し、かえって独占禁止法の目的を蔑ろにするものであるとともに、協同組合の世界的な共通の概念を否定し、協同組合のアイデンティティ自体をも喪失させることとなり、到底、認めることはできない。
以上、宣言する。
平成22年5月10日
生活クラブ事業連合生活協同組合連合会、日本労働者協同組合連合会、全国中小企業団体中央会、全国漁業協同組合連合会、全国共済水産業協同組合連合会、全国森林組合連合会、全国農業協同組合中央会、全国農業協同組合連合会、全国共済農業協同組合連合会、農林中央金庫、家の光協会、全国新聞情報農業協同組合連合会、全国厚生農業協同組合連合会、農協観光
【著者】第1回