職員は自分のファンづくりを
◆苦しい時代こそ結集を
――組合長時代には農協のあり方として「足で稼いで心でつなぐ」などのメッセージを発信してこられましたが、行政トップの立場から、今のJAを率直にどうご覧になっていますか。
弱者がみんなで力を合わせて組織をつくり、しっかりと組合員の負託に応える運動づくりをしてきたのが日本の農協。それを忘れ、「時代だ」と言って組合員をないがしろにしたり、いたずらにただ経営に走ってしまえば農協は崩壊する。
協同組合運動というのは共存同栄の精神に基づいてつくられていってこそ、組合員も農協に期待を込めてくるはずです。
リーマンショックから始まった経済低迷の影響が農協にも出てきているかもしれないが、まず組織、組合員の力を結集する。共存同栄精神に結集させて、みんなで力を合わせて地域の組合員を守り、組合員のために何ができるかということを絶えず探求して事業を進めていかなければだめだ、こういつも話をしているんです。
◆植物はどこから養分を得ているか?
――改めて組合員の結集を、と?
本当に農業協同組合というのは末端が大事なんですよ。植物、農作物だって、決して太い根っこだけではなくて、先端まで延びている細い根毛によって支えられていることをややもすると、忘れているんじゃないか。
郵貯限度額の引き上げなど郵政改革見直しは問題ではあるけれども、末端を大事にして結集をはかりながら運動をしっかりと進めていれば、5000万円になろうが、おらが農協だよ、と貯金も共済も結集してくる。そして、そこで得た利益を、農協のいちばんの目的である農業振興に大きく投下して発展させる。それによって営農指導員も増強して取り組んでいく、こういう真の農協運動がつくられていく。
ただ、今は、おらが農協という意識が薄れてきちゃっているわけだ。とくに今の若い人は自由にものを言ったり自分の意見を聞いてくれるところに寄っていく。これにどう対応するか。
――次世代対策はどこのJAでも課題ですね。
かつて農協は、揺りかごから墓場までのキャッチフレーズのもと、どんなことも農協と一緒だよ、という旗を振ってきました。しかし、儲からない事業はだめだという話が出てきた。もともと組合員の要望に応えるための事業のなかには儲かりっこない事業もあるのに。営農指導員を増やしてもそれだけで生産力が上がるわけではないし、生活指導もそうです。
しかし、それをやめてしまえば、農協というものが組合員の生活のなかから離れていってしまう。そうしておいて貯金と共済だけは農協へ、と言ってみても今の若者はついてこない。自分たちの生活に必要でなければ協力してくれないし、自分の身近に感じる農協でなければ誰も農協を利用しなくなるということです。
これを変えなければいけない時が来ているのではないか。
◆変わる時代にどう「旗」を振るか
――まずどこを変える努力をすべきでしょうか?
この間も苦言したんですが、職員が部長になり、そして学経理事になり、専務、組合長になるということだと、結局、みんな職員から役員まで同じ器のなかで育ってきたものばかり、ということになっていないか、と。
私は飯山ではめったになかった民間からの市長ですが、これまで行政で市の職員から助役になり市長になりと、同じ器のなかで育ったものがやっていた。これではまったく変わらない。さっぱり幅も広がらないし、新しい道もできないというのが行政だった。そこに私が民間から入ることによって、大きく変えた。
だから、農協も今のようなシステムではだめだと。たとえば、理事もいろいろな団体など外部から入れて農協のあり方をしっかり論議してその論議した結果、みんなが参加してくれるような土台、地盤をつくっていく。一刻も早く若者をはじめすべてに見通しのきく旗を振って結集させなければ。 組織はたしかに大きくなった。しかし、先端から水や栄養分を吸い上げる力があるのか。それが弱ってくれば農協という大木は枯れるに決まっている。では、先端の根を増やすためには何が必要か。それは経営的には不採算でも農業振興のために営農指導員を増やし、農協本来の役割を果たす、生活面でも身近な存在として介護事業や子どもへの食農教育などで役割を果たす、ということをやる。もっと根を張ることをしっかり考えるべきだということです。
◆地域の危機に敏感になれ
――生活のなかに農協があるんだ、と組合員、地域住民が分かるようなあり方をやはり農協はつくり続けなればいけないと。
そうなんです。たとえば、組合員が畑に行って作物をみたら、ちょっとおかしいぞ、でも農協のあの職員に電話をかければすぐに答えが出るはず、という体制をつくれるかどうか。
言い方をかえると役員もそうだが、職員も自分のファンをつくるということ。しかもそのとき自分は技術屋だから他は知らない、というのではなくて農協の職員は何事にも対応しなければ。携帯電話があるんだから、今こんなことを組合員から聞かれているんだが、と職員同士で連携をとってそれですぐに回答とする。今の時代ならそういうこともできるし、職員どうしのコミュニケーションを図って農協のファンをどうつくっていくか。ここに尽きる。この精神があればまだまだ農協は期待もされるし成果も出てくると思います。
たとえば、この地域では特産のアスパラに病害が発生し出荷量が下がるという問題が出てきましたが、それに対して今、アスパラに代わる冬至カボチャを生産して所得を補うようなことも検討している。このように農協が動き始めたぞ、と組合員に分かることが大事です。
地域で作り上げてきた特産物は市場で指定席を確保できているわけですよ。指定席を取るのは簡単なことではなく、先人たちの苦労の結果。それを守っていくのも農協の経営陣にとって重要な仕事です。
こうした旗を振っていけば、農協は絶えず組合員のために新しい風を吹かせているんだと分かってもらえる。そのためには役職員は絶えず勉強をして何をしなければならないか自分に問い続けてほしい。
◆常に組合員の課題解決を視点に
――一方で、1人1票制見直しや独禁法の適用除外見直しなどが政府の行政刷新会議の検討事項に上がっています。協同組合に対する理解のないまま、農協改革が議論されていることはどう思われますか。
理不尽な主張には反論していくことは当然だと思います。独禁法の問題でいえば、これは法律的には、農協が擁護されるのではなくて、組合員が擁護されるためのもの。だから大事にしなければならない。
ただ、政治との関係でいえば、共存同栄という思いをもって農業協同組合運動を続けてきたのであれば、もっと独立した力を持っていなくてはいかんと思う。今までは政府に要請する、もっと言えば自民党に関与するような国会議員を選出していれば、なんとか生き抜いていかれるだろうというような考え方を持ってきたことには問題もあると思う。
だから、これからはどの政党を支持するというよりも、しっかりと農家、組合員が抱えている問題を解決できる政策を打ち出しているかどうかで判断していく必要がある。たとえば戸別所得補償制度が導入されるが、一方でFTAやEPAの話は本当はどうなのか。国民全体にもアピールするようなぶれない農協運動を続けることが大切だと思います。
――行政の立場からは、たとえばJAがこの地域からなくなってしまったときに、どんな地域や暮らしになってしまうと思われますか。
それはなくしてはならない。とくに農村地域には農協運動がしっかりと息づいて農村が保たれている。だからそこに早く気づいて時代に対処し得る農協運動を続けてほしいということです。
この地域から農協がなくなってしまったら、これはある意味で無法地帯と一緒です。農協という農村地帯を守るひとつの防波堤を喪失したことにつながるんだから。何が何でも農村を守り発展させるために、役員は役員として職員は職員としてしっかりやってほしい。それに対して行政としても目一杯支援をつづけなければいけないという思いを持っているわけです。