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2012年国際協同組合年に向けて 協同組合が創る社会を

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【対談】いまJAが果たす役割は  廣瀬竹造・前JA全中副会長――土屋博・JA全中常務理事

・異なる地域や支店の特性を活かすのが総合農協の力
・集落営農組織が支えてきた米づくり
・JA役員がほ場や現場へ出向き組合員の声を聞く
・協同組合の素晴らしさを周知徹底すること

 いま日本の農協組織はどのような課題をもっているのか。そして地域社会のなかでどのような役割を果たさなければならないのかなどについて、長年にわたってJAの組合長やJA全中の副会長はじめ要職を努めてこられた廣瀬竹造氏とJA全中の土屋博常務に語り合っていただいた。

協同組合の使命・あるべき姿を
改めて確認することから

 

◆異なる地域や支店の特性を活かすのが総合農協の力

 

廣瀬竹造・前JA全中副会長 土屋 廣瀬さんがJAの組合長になられたのは平成7年でしたか?
 廣瀬 平成3年に近江八幡農協の理事になり、6年にJA合併の担当常務になりましたが、合併時には近江八幡農協の専務で、そのまま合併したJAグリーン近江の専務になり、翌7年に組合長になりました。そして8年から全中の理事にもなり、米政策の委員とか全農の事業2段の研究会の委員をさせてもらい、14年に滋賀県中央会会長、17年から全中の副会長を努めさせてもらいました。
 土屋 いくつのJAが合併したのですか。
 廣瀬 当初は11JAの予定でしたが、最終的には9JAが合併しました。専門農協とか中山間地の高齢者が多い農協とか、条件が異なる9JAが合併したので、合併後も、信用事業が得意な支店とか、営農が得意の支店、畜産生産者が多い支店とか地域による特性がありました。そうしたなかでも総合農協として事業ごとに縦割だけでみるのではなく、事業同士が連携した横の関係が非常に重要だと考えてやってきました。
 土屋 具体的には…
 廣瀬 例えば大中地域は畜産や野菜が中心で、牛とか買うために資金が必要ですから、JAが融資します。しかしその資金は他の地域で貯金してもらったお金を原資に安い金利で融資しているわけで、合併したからできたことです。決算は事業ごと、支店ごとに行いますが、収益性の低いところがあっても全体で補完しあう、それが総合事業ですし、JAの良さです。営農関係だけではなく、組合員の地域のくらしに必要な事業に還元をしたりもJAはしているわけです。
 土屋 営農経済や信用・共済を含めた総合経営だから、地域の農業振興やくらしを含めたカバーができているということですね。
 廣瀬 信用・共済で収益があるので、営農指導とか生活関連事業ができるわけで、これを分離したら、地域の農業やくらしを支援する方法がなくなります。営利企業と異なり、JAは協同組合ですから、組合員や地域にたえず還元しているわけです。
 土屋 くらしの関係で特に力をいれられたことはどういうことですか。
 廣瀬 女性部の育成、葬祭事業そして介護支援ですね。女性部員には介護の勉強もしてもらいました。

 


◆集落営農組織が支えてきた米づくり

 

土屋博・JA全中常務理事 土屋 平成8年から10年ころの米政策の議論は大変だったんでしょうね。
 廣瀬 JAグループの力を削いで、米の生産・流通を自由化しようというものでした。それに対して、私たちは需要にあった計画生産をすることが大前提だし、そうでないと米価を維持できないと主張したわけです。
 土屋 米事業についてJAグループの力が強すぎると思われていたのですか。
 廣瀬 米の集荷もありましたが、肥料とか生産資材などをJAが一元的に扱うのは困るという商系の意向もあったと思いますね。それがいまの独占禁止法適用除外の問題につながってきていると思います。
 土屋 農産物を作っているのは規模の小さな多数の農家ですが、それを協同組合として集めて売ることで力を強くして公正な市場を成立させる。そのことを期待した適用除外ですが、その通りになったら「それはやり過ぎ」というのは、おかしいですね。
 廣瀬 滋賀県では集落営農でしっかり営農しているので、法人とかが大規模にと思っても田んぼがまとまらないので、トラックに農業機械を積んでほ場を移動して生産しています。そういうところの米は、ほ場ごとに土壌が違うので米の質にばらつきがあります。
 JAは集落単位で、ほ場の条件もほぼ同じですし、肥料や農薬も同じものを使ってもらえば、均質な米がとれます。カントリーエレベーター(CE)の利用も強制ではなく任意です。このCEではこういう米を作りたいから賛同する人は参加してください、とやっているわけです。それを「けしからん」と商系とか一部の大規模生産者はいい、独禁法の問題にしているように思いますね。
 土屋 滋賀県での集落営農は生産調整が始まってからですか。
 廣瀬 生産調整が始まってからですね。それ以前もお祭りとか伝統的な地域の行事は集落で行っていました。それをベースに農業もということになっていったわけです。そういう集落が滋賀県は多いですね。そして集落営農組織の役員もローテーションで担い、組織を維持していこうとしています。
 ただ、政権が変わって揺れている部分もありますから、政権党がかわっても日本の食料をどうするか、国際化に対応するにはどうするかといった農業政策の基本は同じにしてもらわないと、現場の農業者は混乱します。それと農産物価格を安定してもらわないと将来がみえませんね。

 


◆JA役員がほ場や現場へ出向き組合員の声を聞く

 

 土屋 JAの役員を辞められて、少し離れたところからJAをご覧になってこういうところがまだ足りないなと思われることはありますか。
 廣瀬 あまり広域化すると組合員との距離が遠くなるので、細かく情報を提供していかないと日常生活のなかでJAが忘れられてしまうと思います。
 土屋 広域JAの運営上の大きな課題になっているようです。
 廣瀬 小規模農協のときは、集落座談会とかを通じて生産者にとってJAは身近にあったと思います。それが合併すると本店は車で30分以上もかかるようになったりします。そのときに、JAの方からどう出向きコミュニケーションをとっていくのかということを考えていかないといけないと思います。合併すると貯金高も購買事業や販売事業の事業高も増え、経営的には強くなりますが、組織面では協同組合が空洞化していく心配があります。
 土屋 JAには本店だけではなく、支店とか営農センターとかいろいろな施設もあるわけですから、コミュニケーションをとる方法はあると思いますね。
 廣瀬 支店ごとに地域特性があるので、支店が一定の範囲で独自に活動できるようにすることも一つの方法だと思いますね。
 土屋 そうですね。支店の役割は重要な点だと思います。
 廣瀬 組織が大きくなると、役員も専門化され商社的になる傾向があって、成績だけを気にするようになってしまいますね。規模がどれだけ大きくなっても協同組合ですから、JAの役員は、担当は何であれ、本店ばかりにいないで、田植えの時には田んぼを回ったりほ場や生産現場へ行き、組合員一人ひとりの顔を知り意見を聞くというような運営をしないといけないと思います。それが協同組合の原点ではないですか。
 土屋 そうすることで、組合員が何を悩み何を考えているかを直接知ることですね。

 


◆協同組合の素晴らしさを周知徹底すること

 

 土屋 国連が2012年を国際協同組合年と定めましたが、まだ一般的に協同組合が理解されていない面がありますね。
 廣瀬 現場で協同組合らしいJAの運動をすることだと思います。
 土屋 先ほどもJAの役員はもっと現場に行ってというお話がありましたが…。
 廣瀬 現場に出てJAの現状について話をし意見を聞いたりするために出向くことです。
 土屋 職員も組合員と話すためには、自分の担当の信用とか共済だけではなく営農も含めてJA全体のことについて深くなくても知っていないといけないですね。
 廣瀬 基本的には営農ではこういう方向でがんばってくださいという話ができないといけないですね。
 土屋 国際協同組合年に向けて全国で取り組んだ方がいいということがありますか。
 廣瀬 国際的には日本のJAは知られているけれども、足元の国内の若い人にはあまり知られていないので、そういう人たちにどう知らしめるかですね。
 もう一つは、JAという組織のなかにも山あり谷ありで、谷の人にも平等に還元するためには縦割りではなく横の運用が必要で、そうした株式会社とは違う協同組合の相互扶助とか原則をもう一度組合員に周知徹底することが重要だと思います。
 土屋 これまで協同組合に触れる機会のなかった人たちにも、また組合員や職員にも協同組合の役割・価値を周知するいい機会かもしれませんね。JAグループでは、統一広報をすることも考えていますので…。
 廣瀬 協同組合は株式会社とは違う素晴らしさを持っています。
 協同組合の使命やあるべき姿を広く伝え認識してもらうことだと思います。
 土屋 今日はありがとうございました。

【対談】廣瀬竹造・前JA全中副会長――土屋博・JA全中常務理事


インタビューを終えて

 国連が2012年を国際協同組合年と定めたことは、画期的なことである。途上国はもとより日本を含む先進国においても、市場原理主義とグローバリズムが生み出した経済社会上の深刻な問題を協同組合が解決できる可能性について世界が高く評価したわけである。
 日本においても、協同労働の協同組合法制定の動きや鳩山内閣の「新しい公共」円卓会議での議論も同じ経済社会的背景の中からで出てきたものと言えよう。
 しかし、一方では、協同組合への独占禁止法の適用除外の廃止など協同組合の意義を否定するような規制・制度改革分科会の動きも見られる。また、残念なことに「新しい公共」の議論でも、自発的な協働の場=「新しい公共」と定義しながら、NPO中心の議論で既存の協同組合は片隅におかれたままであった。
 このように、協同組合が現実に果たしている役割や価値は、協同組合の外の人たちには十分理解されていないのが現状である。国際協同組合年を契機に全国・地域で協同組合の認知度を向上させる取り組みを行う必要がある。また、外部から評価されるためには、地域社会で生じている深刻な課題に対して協同組合が地域の人たちと協同してどう取り組んでいるのかが重要であり、「新たな協同の創造」に積極的に取り組んでいく必要がある。
 廣瀬元副会長は、JAグリーン近江での取り組みを紹介しながら、地域の農業やくらしの課題を重視してJAが取り組んできたこと、それを支えたのは合併と総合事業だと話された。また、その一方で、広域合併JAの組合員との距離が遠くなるという組織運営面での課題についても話された。
 組合員との関係が希薄化する問題は、JAの規模だけの問題ではなく、農業構造の大きな変化に起因するところが大きいと考えられ、ほとんどのJAに共通する課題である。
 国際協同組合年を協同組合にとっても、組合員の協同を強め、協同組合らしさを強化する契機にしたいものである。
(土屋)

【著者】第6回

(2010.07.29)